これまでのあらすじ
『病迷悪夢』
(13000字です、切りながらでも御読みください)
「………闘戮に来た?………ハ、巫山戯るな」
「巫山戯て?アッハ、ンな訳ねーよ」
細目でジッと見つめるメア。
相手は如何にも「ワルそう」な奴。
禰黒魔 閼不杜、東ギルドのメンバーであり、前々回の東ギルド夢世界トーナメントの真の覇者。
然し彼は其の余りにも非道い素行行為により優勝権を剥奪され、代わりにメアが優勝権を得た(訳分からない)。………と言う、取り敢えず色々危険なヤツである。
東ギルドですら、滅多に姿を見せない彼の存在___所謂、情報___を消そうとしている。
「………デ?何だっけ、此の今遣られた女、次の大将戦に出るんだっけか?
____ックハ、これじゃァ出れねェよなァ?」
ニヤァと、片目は大きく開き、片目は細めていやらしく嗤う閼不杜。
此奴、銃菜が倒れるのを見越していたようである。
「………何?大将戦に出たいっての?
………出させるか。只でさえ手前は指名手配と扱われている上に、相手を殺しかねない」
____そう、相手はシーファ。
………私の子____
「ン、何々ィ〜?若しかして俺の事気遣ってくれてんの〜?うっは、メアさんやっさし…………ッ…?!」
「煩い黙れ、其の首切り落とすけど?」
メアの発言にニヤニヤと嗤う閼不杜。
だが瞬間、首元に指が突き付けられる。指をグッと首に押せば、軽くツーッ………と血が流れる。
「ッ……っとぉ、主人!」
「………此れはまた、厭な奴に絡まれてるな」
「………メア、……と誰?」
ゾロゾロと東ギルドメンバーが集まる。
「ン?……ほォ、アレが今の東ギルドかァ?ハッ、そこそこな奴等一杯じゃん。殺し甲斐がありッ…!!」
「何なら其の前に私が御前でも殺してやるよ」
目を細めてニィ、と笑う。
「残忍さも、殺しの腕も、舐めて貰わないでほしいね、閼不杜?」
「………チッ」
閼不杜の血の匂いが微かに充満する。
「………って、銃菜!?」
スヤスヤと眠る銃菜に駆け寄る刀子。
其の近くにはフィングレイと槍児の倒れる姿も在り。
「………何、此の混沌とした光景」
「……確かに」
東ギルドのメンバーが二人も倒れて、敵も一人倒れており
更に団長が何処の誰だか知らない奴の首元に指を突き付けている。
そんな首元に指を突き付けてられている奴が、何かを思い付いたように、苦痛で微かに歪められた表情をパッと明るくする。
「………ん、ア、そーだ。
なァ東ギルドの奴等よォ!俺さ、其処の女の代わりに大将戦出てェンだけど、いいかな?!」
「「「!!?」」」
ビシッと銃菜を指差して言う。
「ッ………手前………」
「グッ…!?」
更に指をグッと押し、プシュッと軽く血が出るのが見える。
「……銃菜の、代わりに?」
「ん〜、あたしは反対かなぁ。幾ら力が強くても、阿呆みたいに人殺しするんだったらねぇ?其処んトコ如何思うよ皆?」
真っ先に意見を出すクレル。
「俺も勿論反対だが………、メアが本気で出させたくないッて顔してるしな。……………」
____だが、他の奴等の意見は………____
「ん〜、ボクもかな?錬斗も、斬鉄もそうでしょ?」
「『此奴の噂は良く耳に挟む。全て紳士とは思えない。否、残虐非道の手口だから、勿論反対だ』」カリカリ
「……当たり前でござろう?」
____
「俺は賛成、だな」
そう言葉を発したのは、影裏。
「………ん?何でかな影裏クン?理由聞いてもいーい?」
「其奴、強いんだろう?其れに、銃菜も今は戦闘不能だ。此処で棄権したら、俺達の幻影の石を手に入れる目標は如何なる?」
「………あー、そう来たか」
呆れたように溜息を吐くクレル。
「あのねぇ、スポーツマンシップって言葉知ってる?知ってるよね??てか先ず彼奴の事知ってる?残虐非道の糞野郎だよ?相手殺しかねないよ?殺したりしたら其れこそ失格になって終わりだよ?其処んトコOK?……ッハァ」
____相手は死なないから其処は別に問題無いんだけどさ………うん____
ノンブレスで言い切る。
「知るかそんなの」
「………ハァ、あっそう」
____後で主人の鉄拳制裁食らうの確定だね____
「……へェ、賛成なんだな?ンじゃ、賛成って奴等手ェ上げろ!」
閼不杜がそう言うと、ゆっくりとだが、かなりの数の手が上がる。
賛成派多数____
「………ッな」
「ハッハーン、如何よメアさんよォ?どーせ人間ってのはそーゆーモンなんだよなァ、アッハハ笑えるぜ!!」
「………チ」
指を首元から離す。
手には血が少し、ベットリと付いている。
「ンじゃ、早速エントリーしてくるわ」
首元を抑えながら手をヒラヒラと振って何処かへ行く。
「………嗚〜呼」
「……如何するメア、相手はシーファだぞ?」
「…………そうだね」
クレルと冷の発言に一言、小さく返す。
其の言葉には、僅かに殺気が含まれていた。
指に付いた血を舐めながら、言葉よりも大きな殺気を含んだ目で、メンバーの方を見る。
「………奴を試合に出した事、後悔しておけ、手前等。
例え奴が勝ったとしても、何も達成感は無い。
寧ろ、悲痛感に囚われる」
そう言い残し、スタスタとある方向へ歩き出す。
一同が、固まっていた。
「……主殿の意見は、常に正しい。
………奴、禰黒魔 閼不杜は夢世界で『死体獣の悪魔』と呼ばれている、凶悪犯でござる」
「手口は、自らが殺した人間や動物達を、自身の能力で操る。
極悪非道の死体使い(ネクロマンサー)」
剣士二人が言う。
「そんな奴を出して、主人は良い気にならないだろうね」
____今も主人は、シーファに会いに行った。
………危険を知らせる為に____
*
*
*
____入場口付近、北ギルド選手待機
一人の小さな少女が、試合を控えて待っている。
そんな少女の後ろに見えるのは、もう一人の少女。
「____シーファ」
「………お母さん!」
やって来たのは二回戦北ギルド大将・シーファの母であり、東ギルドの纏め役・メア。
母の姿を見つけては、走り寄って飛び込む。
「お母さん………あのね、わたし、今とっても怖い……。
フィングレイが、スパイだったなんて………わたし、ギルドに入ってから、少しだけ仲良くしてた、のに………」
小さくカタカタと、自らの腕の中で震える娘の身体を、ギュッと力強く、然し優しく抱き締めるメア。
背中をトントンと、リズム良く叩く。
「うん………そう、そうだね。
………次の試合、シーファを出させたく無い。
………でも、出なくちゃいけない。
シーファ、よく聞いて。……東ギルドの大将が変わった。相手は、凶悪犯」
「きょう、あく……はん……?」
「『とても悪い犯罪者』。……奴の能力は死体使い、其れに本性の姿もある。………と言っても、シーファの能力には到底及ばない。
………だけど、気を付けて」
「おか……さん……」
シーファの身体を離す。
「試合が終わったら、迎えに行くから、ね?」
「っ、うんっ!」
緊張で強張った身体も、少し解れた。にこやかに、幸せそうに笑う。
____試合開始まで、後少し
*
*
*
「ん〜、あ、主人お帰り〜!シーファのとこ行ってたんだよね?………まぁ、相手がアレだからねぇ………娘に注意勧告したくなっちゃうよねぇ」
「………そうだね」
*
*
*
____闘技場
『大将戦!東ギルド、水音寺 銃菜………えっ、選手交代?………なっ、此れは!
………はい、はい………分かりました。
えー、取り乱してしまいました、失礼致しました。東ギルド、選手交代だそうです。
では、改めて……大将戦!東ギルド、禰黒魔 閼不杜VS北ギルド、シーファ!』
両者が入場し、対面する。
閼不杜の姿が見えるなり、観客席が騒つく。
「なぁ……禰黒魔って……」
「嗚呼、彼の凶悪犯だぞ………」
「奴を選手交代で出すって、東ギルドの奴等、何考えてんだ!?」
「此の闘技場、壊れかねないぞ………」
*
「………言わんこっちゃない」
「ほーら批判来た。あたしもう知〜らない!」
「ボクも知〜らない!!」
*
「……ッ……」
____此の、男の人が………きょうあくはん………。とっても悪い、犯罪者………____
「へェ〜?相手は餓鬼かァ!
こりゃァ………潰し甲斐がありそうだなァ!?」
「ッひ………」
閼不杜に『バトルで勝つ』という考えは無い。
『バトルで潰す』のが彼の考えである。
『……それでは、試合____開始ッ!!』
刹那____
「____ッ!!」
「ッとォ?!」
「何だ?」
「すっげぇ………あの子速い……」
*
「っぇ、何あの子!」
「ちっちゃいのにはっや!姐さん、彼の閼不杜って奴、窮地じゃないですか!?」
「………シーファの力、舐めないで欲しいね、栞」
「え?………は、はい?」
*
体術で攻め掛かるシーファ。
少し覚束無い感じはあるが、常人には見えぬ速さである。
僅かながらに攻撃を当てに行っている。
一つ一つの攻撃が重い。
「ッ……チ……。
此の儘遣られッぱなしッて訳には行かねェよッ!!」
「ッ……と!」
まるで攻撃を見切っていたかの様に、自ら攻撃を止めてバック転で後ろに引く。
*
「………あれあれ、シーファ若しかして………能力全部出しちゃっ……?」
「……今のは『予知』か」
「………予知?」
予知、という単語に烈華が反応する。
「ん?……嗚呼。北ギルド大将のシーファは、夢世界で得た能力にプラスで、他の力を使う事が出来る。………其れはもう、何でも、な」
チラリとメアを見ながら言う冷。
当の本人は試合をジッと見ている。
「……まあ、威力弱めだが」
*
「ッチ!」
「……っ、ふぁ………」
____何だ此の餓鬼、只者じゃねェな………
だッたら………____
「《『屍鬼・ネクロマンサー』》!!」
「………っぇ?」
閼不杜の周りに黒い、人と同じくらいの大きさの渦が現れる。
からの____
「……っ、ぃやっ……!」
シーファの身が一瞬たじろぐ
____死体が、現れる。
閼不杜の手によって命を絶ち、現実でも死亡と見做された、謂わば精神の抜け殻と化した人間。ドサッと、地面に投げ出される。
其れが、グググ………と立ち上がる。
ダランと目は別の方向を向き、首を前に出して、其の姿はゾンビである。
「っひ!」
「し、死体……!?」
「彼奴……本当にやりやがった……!」
「審判、止めろ!!奴は試合に出しちゃいけねぇ!!」
*
「………何、どういう事だ……?」
拳がジリ……と少し後ろに引く。
「………ホラ、だから言っただろ。周りからのブーイングも凄い。………其れもあって、出したくなかったんだよ、メアは」
「其れに、生身……と言うよりかは現実でも死亡と見做された精神の抜け殻………其れをモロに出してくるからねぇ。見て如何よ、死体」
ピッと指差すクレル。
指先、闘技場に立つ死体は五体。
「如何、って………」
「…………ッ…………」
「…………別に此処で幻影の石を取らなくても、他で未だ、取れる場所はある。
………其れでも、奴を試合に出し続けるのか?
………批判を浴びてまで?御前等、次の時は更にそうなる。………御前等にとっては、名も知れない犯罪者の為にな」
「「「……………………」」」
*
「ッヒャァハハハハハッッ!!どーよどーよォ!!?死体だぜ死体ィ!!ホラホラ動けよ下僕共!!彼の餓鬼を____
____ブッ潰せェ!!」
其の一言で、死体が動き出す。
然しゾンビの様に遅くない。
____普通の人間と同じくらいである。
否、死んだ事で身体に掛けられた限界(リミッター)が外れているのか、それ以上。
________彼等は此処で死ぬ前は、きっと腕の立つ人間だったのであろう。
生前、会得していた能力を使って襲い掛かってくる。
*
「………思ったんだけどさ、あの死体を完全に再起不能にするのってアリなのかな?失格にならないよね?」
「再起不能?」
「………夢世界にある、精神の抜け殻基、生身の身体。………其れを破壊して良いのか、って事でござるか」
「そそ」
「…………ん〜、アリなんじゃないかな?だってもう、死んでいるんでしょ?」
「でも、人の身体を壊すのって一寸気が引けるよね〜……」
「「……うーん??」」
首を傾げる炸破とクレル。
*
「……ッ、ヤァッ!!」
一人一人………否、一体一体、蹴りや突きで跳ね飛ばしていくシーファ。
「ッ、《『妖演舞 - 火車・伍ツ』》!!」
妖演舞(アヤカシエンブ)____妖怪召喚
サブ能力の一つ。
火車を五体召喚、死体に絡みつく。
「ァ"………ガ……ゥァァァア"ア"……!!」
「………ッチ、妖怪かよ………!」
「……………人を、ころす、の………何でそんなに、好きなんですか……」
ボソリと、閼不杜に問う。
「アァ?………ンなの、人間の悲鳴とか最高だからだよ!!其れに切った時に出る鮮血……臓器………ああいうの見るとさァ………
____気が可笑しくなりそうなくらいに、楽しくなるンだよなァァッ??!!」
「…………そう、です……か。
………お母さんも、そうだったのかなぁ……。
でも、あなたみたい、なの………
許せない。
《『重力(エルクシィ)』》」
ブワァッ、と黒い何かが一瞬、シーファの周りに見える。
すると、ふわっと宙に浮き始める。
能力、物理法則____目には見えない世界の摂理を利用し、様々に物体、または空間に働きかける
其の壱____重力操作
重力で自らの身体を浮かすも良し、圧縮して何かを潰すも良し。
「………ッハ」
「許さない、許さないッ、《『雹雪形 - 十字剣(ダガー)』》____
____ハァッ!!」
*
「………アレ、俺の技……」
「見様見真似でやったのかな?」
雹雪形____氷属性造形技
冷が元から保有している技である。
「…………否、まあ………よくやってたけどさ………シーファが『ぞうけいにんぎょう?造って!』って言ってたから………。
でも、技として扱えるのに気付いたのか」
「元々、技だしね」
「………すご………氷の力で……こんな事が出来るんだ……」
ふわ………と声を小さく上げる悠。
「……まあ、氷は基本は造形だな。其れを如何に強固に、力を込めて、精密に素早く造れるか、だ。
御前には未だ、其れが全然足りない」
「むっ………!」
*
氷で精製された十字剣
閼不杜に向かって飛んで行く。
「………ンだよォ…………弱っちィなァッ!!」
一つ一つ、雑に砕いていく。
其れでも、次々と出て来る十字剣。
更にはシュゥゥ………____と音がする。
「…………《『鏡写しの蜃気楼(マイヤメルア・サラブ)』》!
………め、くらま……し?」
水と炎の融合技。
高温の蒸気で光の屈折を生ませる。
目眩し、とは____。
「____ッ……?」
____消え、た……だと?
………ッィや………____
「其処かァッ!!」
バシッ!!
フッ………
「ンなッ!?」
攻撃は当てた筈。
然しシーファは其処には居なかった。
否、消えた____。
____『此方、ですよ』
「ッ……ハァッ!!」
____『……残念、此方です』
「ッチ………ッラァッ!!」
*
「………アレ、閼不杜……だっけ?何処狙ってるの?」
「と言うか、一足遅い?」
「………『鏡写しの蜃気楼』。水と炎の融合技、高温の蒸気で光の屈折を生み出し
____蜃気楼を、幻影を作り出す」
蜃気楼は御存知であろう。
蜃気楼は、密度の異なる大気の中で光が屈折し、地上や水上の物体が浮き上がって見えたり、逆さまに見えたりする現象である。
光は通常直進するが、密度の異なる空気があるとより密度の高い冷たい空気の方へ進む性質がある。
其れを利用して、別の場所にあるシーファの姿を、また別の場所に現しているのである。
____オマケに、気配をも消している。
故に、閼不杜はシーファの本来の場所を探し当てられない。
「…………シーファ」
____優勢、だけど。
………油断は、禁物____
*
____水鏡の檻へ、ようこそ。
親も親、子も子である。
二人して、戦闘は嫌い。
然し、戦闘となれば、誰かを滅する迄、負けと見なす迄終わらない。
相手の様子を、じっくりと見る。
「ッチ………にゃろ……ッ!!」
____『………………
此方、です…よ』
耳元で声がする。
嗚呼、クッソ嫌気が立つ。
殺したくなるくらいに、苛立ってるンだよ。
よくも俺をコケにしやがって。
「ッ、そ……こ、カァア"ぁっ!!?」
「………《『零冷雷光 - 纏』》ッ____!!」
振り向いた刹那
目の前に居るシーファ。
____獲物を狩る様な目で。
手に氷と、雷と光を纏っている。
そんな拳で、顔に一撃食らわす。
*
「………また俺の技」
「シーファ、冷の事好きだもんね〜!おとーさんおとーさん言ってるし」
「だから父親じゃねェッての。寧ろ母親ポジションだし」
「………私が母親だからね」
…………
「「「!!!?」」」
「エッ………え、あの子………メアの娘なの?!」
目を大きく見開いて刀子が問う。
「……そうだよ?」
「………道理でメッチャ強い訳だな。
………母親譲り、か」
「…………え?でも……あれ?メアって中学生……高校生くらいだよね?あの子、5歳から…10歳に満たないくらいだけど……んんん???」
「………私の年は言わない。
まあ、此処にいる全員より全然年上だけどさ。無論、ライアよりも」
「「「……!!!!?」」」
「……因みにシーファは8歳だから」
「………僕と、同い年……ですか?!」
吃驚マン____☆
*
「ッ……ガ………」
「………っふぅ……」
顔面にモロ攻撃を食らった閼不杜。
戦闘________
『ッ……勝者!北ギルド、シー____………
……え?!』
「………ッチ……ってェ………なァ……!?」
ユラ……と立ち上がる。
「………………………」
____お母さんに、わたしたちの力は本気で使えば、世界の均衡が崩れる、って言われた。
だから、本気なんて、全然出してない、けど。
…………………____
「………立ち、ますか」
「…ッハ……ァ……ハハ……!!本気で向かって来ねェッて………俺も相当舐められたモンだなァ………?!」
「………わたし、は………本気が出せない。……いや、本気を出しちゃいけないんです」
「………へェ?」
「世界の均衡が、崩れてしまう、から……」
「………ヘェ?例えば?」
「………
世界が一瞬で壊れるくらい、ですかね」
____世界は、お母さんのお母さんが創った。
でもその反面、わたし達は同威力、それ以上の破壊の力を持っている(かもしれない)。
…………何もしなくても、力がドンドン増えていくばかり____
____世界が一瞬で壊れるくらい。
その言葉を聞いて、ニィ…と嗤う閼不杜。
「ッへ………ア…ハハハ!!世界が一瞬で壊れるくらいネェ……上等上等ォ!いいじゃねェか………何ならよォ……
壊す気で俺にブツかって来いや餓鬼がよォォ!!?」
「…………莫迦ですか?」
「……あん?バカだって?何ならその言葉引っ繰り返す様に本気出させてやるよ。
………ハハハ!!此の姿になった事はあまり無いんだがなァ………俺を此処まで本気にさせてくれた礼だ………ァハハ____
死にやがれ!!《『死体喰の蒼電』》____
ッ____ハァァッ!!」
「ッ……?!」
*
「……最終奥義、ね。其処まで追い詰めたか」
「えっ…うわ、何アレ……」
「……"憑依技"、でござるか」
「斬鉄、正解。えっと……ブルーサンダーゴン、だっけ?そんな竜を宿してる」
*
閼不杜の身体の周りには、蒼くパチパチ、否バチバチと電気がある。
「………属性に、黄色、電気を追加ですか?
…………」
ふーん、と如何にも詰まらなさそうな顔をするシーファ。
「………ン、つまんねェってか?
雑談は終わりだ。面白くさせてやんよ……ォ……!
これでも食らいやがれ!!ハァッ!!」
グッと拳を握る。
拳にはビリビリと電気____
其れを天に向かって放つ様に、
手を伸ばす。
ゴロ、
ゴロ…ゴロ………
雲行きが怪しくなる。
ポツポツ、と雨が降り始める。
「うっわマジかよ……雨?」
「傘、傘〜!」
「………雨、雷………」
「感電しやすいよなァ?痺れて戦闘不能にしてやるよ!!
《『蒼電風雨』》____
ッラァッ!!」
上から
前から
蒼電が、来る。
「ッ………」
____水、何故水は電気を通すのか。
真水は元々電気を通さない。
様々な物質____そう、水道水は塩素が、海水は塩こと塩化ナトリウムが溶けているから。
電解質の物質が電気を通すから、水は電気を通すのである。
水の性質をそのまま変える事をしても良い。不要物を取り出しても良い。
然し____
____水には炎。
雷には、風を____
「《『風焔(リーフリヤーフショーラ)』》____
焔は舞って、風は荒れ狂って
ッヤァ!!」
一瞬、シーファの身体が赤く光る。
ボウッ!!
雨水が、水が、雲が、消える。
然し蒼電は降り注ぐ。向かって来る。
今度は、翠色に光る。
同威力の風を雷に向かって、放つ!
*
「ッ……何だ、あの火力!!?」
「雲まで蒸発させやがった………」
「……え、電気に風?」
殆どがポカンとした表情。
火力もそうだが、
雷に風、とは?
「八卦、って知ってる?」
高い声が聞こえる。
発したのはクレル。
「………八卦?」
「太極図とか、知らない?……まあいいや。
炎に水、雷に風は其々相対関係にあるんだ。
其れを同威力でぶつけ合うと如何なる?
____打ち消し合うんだよ」
ニッコリと笑う。
*
風と蒼電がぶつかり合う。
威力は同じ。
____打ち消し合う。
「っ……ふぅ………
………あれ?」
____居な____
「此方だよ、ッラァ!!」
「っあ!!」
シーファが雨と蒼電に対応している間に、身体に纏った電気で自らの筋肉を加速させて背後に回って居た閼不杜。
御返しだ、と言わんばかりに容赦の無い蹴りを食らわす。
「っ、く……!」
ビリビリ、と電気が身体を流れる。
反撃をさせる暇なんて与えない。
次々と攻撃を与える。
「オラオラオラ!!先刻の威勢は如何したァ?!」
____ッチ、此の餓鬼………不安定な体勢から徐々に攻撃を受け流してるな……____
……………………
「………動揺は、一瞬の油断、です。お母さんが言ってました。
未だ未だ、です。他の人達には勝てるかも。
でも、わたしには、わたし達には勝てない。
____こんごう、しゅぞく?で、産まれて来た、名誉あって、悲しい種族には、勝てないです。
………でも、お母さん達、東ギルドには此処で勝たないと、いけない事があるっぽい、ですから。
わたしは、負けを認めます」
一瞬、シーファの動きが止まる。
____故意。
____っ止まった?!
……ッハ、何を考えたかは知らねェが……
貰った!!____
「ッルァッ!!!!」
「ぃぁっ……!!」
____威力は成る可く最小値に、他の力は吸収する。
シーファの身体が吹っ飛び、
____動かなくなる。
『……………………。
……!?ッしょ、勝者!!東ギルド、禰黒魔 閼不杜!!』
「ッハハハハハ!!!如何だ、見たかメアさんよォ?東ギルド奴等よォ?!
此れが俺の実力だ!!」
「…………………」
____………御免なさい、皆。
でも、此処で若しわたしが勝ってたら、絶対に進めていかなければならない未来への道が、途切れてしまうと思ったから。
………わたしは、態と負けた____
*
「っえ、か、勝った……?」
「………ありゃ、娘ちゃん………凄い吹っ飛ばされたけど、大丈夫ですか姐さん?」
「…………嗚呼、大丈夫。……シーファ、態と負けたんだ。
………戦いに出してしまった事には、閼不杜と戦わせてしまった事には後悔しかない。
……軽い擦り傷で済んで良かった」
「………結局あんだけ攻撃受けてても、ちゃんと受け流してて、最後の攻撃も吹っ飛ぶ程度の力以外は全部吸い取ったみたいだから…………まあ軽傷、ってところかな。ホラ、直ぐ立った」
指差す先には、服に付いた埃などを手で払って起き上がるシーファ。
「「「………………あれだけ攻撃食らって軽傷って………」」」
「……じゃ、私はシーファを迎えに行く。次に出る奴等は、控えといて。
身も心も、ね?批判は未だ食らい続けると思うから」
*
*
「っ、ふぅ………」
____わたしが態と負けたの、お母さん達くらいかな、見抜けたの。
………相手もちゃんと、ハマってくれた。
あの驚きから、気付いてない、よね。
…………____
「………っ、ごめん……なさい………」
____屹と、此の先に進む未来は
夢に囚われた人達を救う術になる。
………………____
運命を取るか、北ギルドを取るか____
少女は、運命を取った。
負けてしまっても、皆の目的は同じ。
____夢の監獄から出る事。
その為に、少女は負けた。
小さく、仲間に呟いた。
試合の前に、脱退届は出した。
もう、母の元へ行く準備は出来ている。
「____シーファ」
「っ、お母さん!」
背後から聞こえる、透き通った綺麗な声。
愛しい、母の声。
目には光が射さずとも、目を細めてにこやかに微笑むモノは、とても優しい。
「………準備は、いいみたい。
じゃあ、行こっか、東ギルドへ」
「うんっ!」
手を差し出すメア。
差し出された手を、小さな手でぎゅっと握りしめ、東ギルドの控室へ向かう。
____二週間だけ、たった二週間だけだったけど
ありがとう、ございました____
*
*
____少し経ち、南ギルド先鋒戦へ____
「ッ、ふぅ………先鋒、私が先鋒……」
軽い呼吸をして、息を整える悠。
「……………………」
____『氷は造形。
如何に素早く、強固に作れるか』____
____『御前には、未だ力が全然足りない。
オメガオーラに頼り過ぎだ』____
冷の言葉が突っかかる。
然し彼の言う事はごもっとも。
『塵も積もれば山となる』____小さな積み重ねも、次第には大きくなる。
十二騎士のメンバーの殆どは、其の小さな積み重ねを、大きな力を得た途端に目から逸らしてしまっている。
だから、何時迄経っても未熟なのである。
レジスタンスメンバーが、追加されたのである。
____昔を見返せ、力を得る秘訣は其処にある。
「………何よ、小さな積み重ねって。
____負けろって言う事?
…………小さな積み重ね、初めの頃。小さな吹雪しか吹かせることが出来なかった。
小さな剣、玩具みたいな、使ったら直ぐに壊れちゃう様な剣しか作れなかった。
………………」
少女は、騎士達は、悩みに悩み続ける。
「………闘戮に来た?………ハ、巫山戯るな」
「巫山戯て?アッハ、ンな訳ねーよ」
細目でジッと見つめるメア。
相手は如何にも「ワルそう」な奴。
禰黒魔 閼不杜、東ギルドのメンバーであり、前々回の東ギルド夢世界トーナメントの真の覇者。
然し彼は其の余りにも非道い素行行為により優勝権を剥奪され、代わりにメアが優勝権を得た(訳分からない)。………と言う、取り敢えず色々危険なヤツである。
東ギルドですら、滅多に姿を見せない彼の存在___所謂、情報___を消そうとしている。
「………デ?何だっけ、此の今遣られた女、次の大将戦に出るんだっけか?
____ックハ、これじゃァ出れねェよなァ?」
ニヤァと、片目は大きく開き、片目は細めていやらしく嗤う閼不杜。
此奴、銃菜が倒れるのを見越していたようである。
「………何?大将戦に出たいっての?
………出させるか。只でさえ手前は指名手配と扱われている上に、相手を殺しかねない」
____そう、相手はシーファ。
………私の子____
「ン、何々ィ〜?若しかして俺の事気遣ってくれてんの〜?うっは、メアさんやっさし…………ッ…?!」
「煩い黙れ、其の首切り落とすけど?」
メアの発言にニヤニヤと嗤う閼不杜。
だが瞬間、首元に指が突き付けられる。指をグッと首に押せば、軽くツーッ………と血が流れる。
「ッ……っとぉ、主人!」
「………此れはまた、厭な奴に絡まれてるな」
「………メア、……と誰?」
ゾロゾロと東ギルドメンバーが集まる。
「ン?……ほォ、アレが今の東ギルドかァ?ハッ、そこそこな奴等一杯じゃん。殺し甲斐がありッ…!!」
「何なら其の前に私が御前でも殺してやるよ」
目を細めてニィ、と笑う。
「残忍さも、殺しの腕も、舐めて貰わないでほしいね、閼不杜?」
「………チッ」
閼不杜の血の匂いが微かに充満する。
「………って、銃菜!?」
スヤスヤと眠る銃菜に駆け寄る刀子。
其の近くにはフィングレイと槍児の倒れる姿も在り。
「………何、此の混沌とした光景」
「……確かに」
東ギルドのメンバーが二人も倒れて、敵も一人倒れており
更に団長が何処の誰だか知らない奴の首元に指を突き付けている。
そんな首元に指を突き付けてられている奴が、何かを思い付いたように、苦痛で微かに歪められた表情をパッと明るくする。
「………ん、ア、そーだ。
なァ東ギルドの奴等よォ!俺さ、其処の女の代わりに大将戦出てェンだけど、いいかな?!」
「「「!!?」」」
ビシッと銃菜を指差して言う。
「ッ………手前………」
「グッ…!?」
更に指をグッと押し、プシュッと軽く血が出るのが見える。
「……銃菜の、代わりに?」
「ん〜、あたしは反対かなぁ。幾ら力が強くても、阿呆みたいに人殺しするんだったらねぇ?其処んトコ如何思うよ皆?」
真っ先に意見を出すクレル。
「俺も勿論反対だが………、メアが本気で出させたくないッて顔してるしな。……………」
____だが、他の奴等の意見は………____
「ん〜、ボクもかな?錬斗も、斬鉄もそうでしょ?」
「『此奴の噂は良く耳に挟む。全て紳士とは思えない。否、残虐非道の手口だから、勿論反対だ』」カリカリ
「……当たり前でござろう?」
____
「俺は賛成、だな」
そう言葉を発したのは、影裏。
「………ん?何でかな影裏クン?理由聞いてもいーい?」
「其奴、強いんだろう?其れに、銃菜も今は戦闘不能だ。此処で棄権したら、俺達の幻影の石を手に入れる目標は如何なる?」
「………あー、そう来たか」
呆れたように溜息を吐くクレル。
「あのねぇ、スポーツマンシップって言葉知ってる?知ってるよね??てか先ず彼奴の事知ってる?残虐非道の糞野郎だよ?相手殺しかねないよ?殺したりしたら其れこそ失格になって終わりだよ?其処んトコOK?……ッハァ」
____相手は死なないから其処は別に問題無いんだけどさ………うん____
ノンブレスで言い切る。
「知るかそんなの」
「………ハァ、あっそう」
____後で主人の鉄拳制裁食らうの確定だね____
「……へェ、賛成なんだな?ンじゃ、賛成って奴等手ェ上げろ!」
閼不杜がそう言うと、ゆっくりとだが、かなりの数の手が上がる。
賛成派多数____
「………ッな」
「ハッハーン、如何よメアさんよォ?どーせ人間ってのはそーゆーモンなんだよなァ、アッハハ笑えるぜ!!」
「………チ」
指を首元から離す。
手には血が少し、ベットリと付いている。
「ンじゃ、早速エントリーしてくるわ」
首元を抑えながら手をヒラヒラと振って何処かへ行く。
「………嗚〜呼」
「……如何するメア、相手はシーファだぞ?」
「…………そうだね」
クレルと冷の発言に一言、小さく返す。
其の言葉には、僅かに殺気が含まれていた。
指に付いた血を舐めながら、言葉よりも大きな殺気を含んだ目で、メンバーの方を見る。
「………奴を試合に出した事、後悔しておけ、手前等。
例え奴が勝ったとしても、何も達成感は無い。
寧ろ、悲痛感に囚われる」
そう言い残し、スタスタとある方向へ歩き出す。
一同が、固まっていた。
「……主殿の意見は、常に正しい。
………奴、禰黒魔 閼不杜は夢世界で『死体獣の悪魔』と呼ばれている、凶悪犯でござる」
「手口は、自らが殺した人間や動物達を、自身の能力で操る。
極悪非道の死体使い(ネクロマンサー)」
剣士二人が言う。
「そんな奴を出して、主人は良い気にならないだろうね」
____今も主人は、シーファに会いに行った。
………危険を知らせる為に____
*
*
*
____入場口付近、北ギルド選手待機
一人の小さな少女が、試合を控えて待っている。
そんな少女の後ろに見えるのは、もう一人の少女。
「____シーファ」
「………お母さん!」
やって来たのは二回戦北ギルド大将・シーファの母であり、東ギルドの纏め役・メア。
母の姿を見つけては、走り寄って飛び込む。
「お母さん………あのね、わたし、今とっても怖い……。
フィングレイが、スパイだったなんて………わたし、ギルドに入ってから、少しだけ仲良くしてた、のに………」
小さくカタカタと、自らの腕の中で震える娘の身体を、ギュッと力強く、然し優しく抱き締めるメア。
背中をトントンと、リズム良く叩く。
「うん………そう、そうだね。
………次の試合、シーファを出させたく無い。
………でも、出なくちゃいけない。
シーファ、よく聞いて。……東ギルドの大将が変わった。相手は、凶悪犯」
「きょう、あく……はん……?」
「『とても悪い犯罪者』。……奴の能力は死体使い、其れに本性の姿もある。………と言っても、シーファの能力には到底及ばない。
………だけど、気を付けて」
「おか……さん……」
シーファの身体を離す。
「試合が終わったら、迎えに行くから、ね?」
「っ、うんっ!」
緊張で強張った身体も、少し解れた。にこやかに、幸せそうに笑う。
____試合開始まで、後少し
*
*
*
「ん〜、あ、主人お帰り〜!シーファのとこ行ってたんだよね?………まぁ、相手がアレだからねぇ………娘に注意勧告したくなっちゃうよねぇ」
「………そうだね」
*
*
*
____闘技場
『大将戦!東ギルド、水音寺 銃菜………えっ、選手交代?………なっ、此れは!
………はい、はい………分かりました。
えー、取り乱してしまいました、失礼致しました。東ギルド、選手交代だそうです。
では、改めて……大将戦!東ギルド、禰黒魔 閼不杜VS北ギルド、シーファ!』
両者が入場し、対面する。
閼不杜の姿が見えるなり、観客席が騒つく。
「なぁ……禰黒魔って……」
「嗚呼、彼の凶悪犯だぞ………」
「奴を選手交代で出すって、東ギルドの奴等、何考えてんだ!?」
「此の闘技場、壊れかねないぞ………」
*
「………言わんこっちゃない」
「ほーら批判来た。あたしもう知〜らない!」
「ボクも知〜らない!!」
*
「……ッ……」
____此の、男の人が………きょうあくはん………。とっても悪い、犯罪者………____
「へェ〜?相手は餓鬼かァ!
こりゃァ………潰し甲斐がありそうだなァ!?」
「ッひ………」
閼不杜に『バトルで勝つ』という考えは無い。
『バトルで潰す』のが彼の考えである。
『……それでは、試合____開始ッ!!』
刹那____
「____ッ!!」
「ッとォ?!」
「何だ?」
「すっげぇ………あの子速い……」
*
「っぇ、何あの子!」
「ちっちゃいのにはっや!姐さん、彼の閼不杜って奴、窮地じゃないですか!?」
「………シーファの力、舐めないで欲しいね、栞」
「え?………は、はい?」
*
体術で攻め掛かるシーファ。
少し覚束無い感じはあるが、常人には見えぬ速さである。
僅かながらに攻撃を当てに行っている。
一つ一つの攻撃が重い。
「ッ……チ……。
此の儘遣られッぱなしッて訳には行かねェよッ!!」
「ッ……と!」
まるで攻撃を見切っていたかの様に、自ら攻撃を止めてバック転で後ろに引く。
*
「………あれあれ、シーファ若しかして………能力全部出しちゃっ……?」
「……今のは『予知』か」
「………予知?」
予知、という単語に烈華が反応する。
「ん?……嗚呼。北ギルド大将のシーファは、夢世界で得た能力にプラスで、他の力を使う事が出来る。………其れはもう、何でも、な」
チラリとメアを見ながら言う冷。
当の本人は試合をジッと見ている。
「……まあ、威力弱めだが」
*
「ッチ!」
「……っ、ふぁ………」
____何だ此の餓鬼、只者じゃねェな………
だッたら………____
「《『屍鬼・ネクロマンサー』》!!」
「………っぇ?」
閼不杜の周りに黒い、人と同じくらいの大きさの渦が現れる。
からの____
「……っ、ぃやっ……!」
シーファの身が一瞬たじろぐ
____死体が、現れる。
閼不杜の手によって命を絶ち、現実でも死亡と見做された、謂わば精神の抜け殻と化した人間。ドサッと、地面に投げ出される。
其れが、グググ………と立ち上がる。
ダランと目は別の方向を向き、首を前に出して、其の姿はゾンビである。
「っひ!」
「し、死体……!?」
「彼奴……本当にやりやがった……!」
「審判、止めろ!!奴は試合に出しちゃいけねぇ!!」
*
「………何、どういう事だ……?」
拳がジリ……と少し後ろに引く。
「………ホラ、だから言っただろ。周りからのブーイングも凄い。………其れもあって、出したくなかったんだよ、メアは」
「其れに、生身……と言うよりかは現実でも死亡と見做された精神の抜け殻………其れをモロに出してくるからねぇ。見て如何よ、死体」
ピッと指差すクレル。
指先、闘技場に立つ死体は五体。
「如何、って………」
「…………ッ…………」
「…………別に此処で幻影の石を取らなくても、他で未だ、取れる場所はある。
………其れでも、奴を試合に出し続けるのか?
………批判を浴びてまで?御前等、次の時は更にそうなる。………御前等にとっては、名も知れない犯罪者の為にな」
「「「……………………」」」
*
「ッヒャァハハハハハッッ!!どーよどーよォ!!?死体だぜ死体ィ!!ホラホラ動けよ下僕共!!彼の餓鬼を____
____ブッ潰せェ!!」
其の一言で、死体が動き出す。
然しゾンビの様に遅くない。
____普通の人間と同じくらいである。
否、死んだ事で身体に掛けられた限界(リミッター)が外れているのか、それ以上。
________彼等は此処で死ぬ前は、きっと腕の立つ人間だったのであろう。
生前、会得していた能力を使って襲い掛かってくる。
*
「………思ったんだけどさ、あの死体を完全に再起不能にするのってアリなのかな?失格にならないよね?」
「再起不能?」
「………夢世界にある、精神の抜け殻基、生身の身体。………其れを破壊して良いのか、って事でござるか」
「そそ」
「…………ん〜、アリなんじゃないかな?だってもう、死んでいるんでしょ?」
「でも、人の身体を壊すのって一寸気が引けるよね〜……」
「「……うーん??」」
首を傾げる炸破とクレル。
*
「……ッ、ヤァッ!!」
一人一人………否、一体一体、蹴りや突きで跳ね飛ばしていくシーファ。
「ッ、《『妖演舞 - 火車・伍ツ』》!!」
妖演舞(アヤカシエンブ)____妖怪召喚
サブ能力の一つ。
火車を五体召喚、死体に絡みつく。
「ァ"………ガ……ゥァァァア"ア"……!!」
「………ッチ、妖怪かよ………!」
「……………人を、ころす、の………何でそんなに、好きなんですか……」
ボソリと、閼不杜に問う。
「アァ?………ンなの、人間の悲鳴とか最高だからだよ!!其れに切った時に出る鮮血……臓器………ああいうの見るとさァ………
____気が可笑しくなりそうなくらいに、楽しくなるンだよなァァッ??!!」
「…………そう、です……か。
………お母さんも、そうだったのかなぁ……。
でも、あなたみたい、なの………
許せない。
《『重力(エルクシィ)』》」
ブワァッ、と黒い何かが一瞬、シーファの周りに見える。
すると、ふわっと宙に浮き始める。
能力、物理法則____目には見えない世界の摂理を利用し、様々に物体、または空間に働きかける
其の壱____重力操作
重力で自らの身体を浮かすも良し、圧縮して何かを潰すも良し。
「………ッハ」
「許さない、許さないッ、《『雹雪形 - 十字剣(ダガー)』》____
____ハァッ!!」
*
「………アレ、俺の技……」
「見様見真似でやったのかな?」
雹雪形____氷属性造形技
冷が元から保有している技である。
「…………否、まあ………よくやってたけどさ………シーファが『ぞうけいにんぎょう?造って!』って言ってたから………。
でも、技として扱えるのに気付いたのか」
「元々、技だしね」
「………すご………氷の力で……こんな事が出来るんだ……」
ふわ………と声を小さく上げる悠。
「……まあ、氷は基本は造形だな。其れを如何に強固に、力を込めて、精密に素早く造れるか、だ。
御前には未だ、其れが全然足りない」
「むっ………!」
*
氷で精製された十字剣
閼不杜に向かって飛んで行く。
「………ンだよォ…………弱っちィなァッ!!」
一つ一つ、雑に砕いていく。
其れでも、次々と出て来る十字剣。
更にはシュゥゥ………____と音がする。
「…………《『鏡写しの蜃気楼(マイヤメルア・サラブ)』》!
………め、くらま……し?」
水と炎の融合技。
高温の蒸気で光の屈折を生ませる。
目眩し、とは____。
「____ッ……?」
____消え、た……だと?
………ッィや………____
「其処かァッ!!」
バシッ!!
フッ………
「ンなッ!?」
攻撃は当てた筈。
然しシーファは其処には居なかった。
否、消えた____。
____『此方、ですよ』
「ッ……ハァッ!!」
____『……残念、此方です』
「ッチ………ッラァッ!!」
*
「………アレ、閼不杜……だっけ?何処狙ってるの?」
「と言うか、一足遅い?」
「………『鏡写しの蜃気楼』。水と炎の融合技、高温の蒸気で光の屈折を生み出し
____蜃気楼を、幻影を作り出す」
蜃気楼は御存知であろう。
蜃気楼は、密度の異なる大気の中で光が屈折し、地上や水上の物体が浮き上がって見えたり、逆さまに見えたりする現象である。
光は通常直進するが、密度の異なる空気があるとより密度の高い冷たい空気の方へ進む性質がある。
其れを利用して、別の場所にあるシーファの姿を、また別の場所に現しているのである。
____オマケに、気配をも消している。
故に、閼不杜はシーファの本来の場所を探し当てられない。
「…………シーファ」
____優勢、だけど。
………油断は、禁物____
*
____水鏡の檻へ、ようこそ。
親も親、子も子である。
二人して、戦闘は嫌い。
然し、戦闘となれば、誰かを滅する迄、負けと見なす迄終わらない。
相手の様子を、じっくりと見る。
「ッチ………にゃろ……ッ!!」
____『………………
此方、です…よ』
耳元で声がする。
嗚呼、クッソ嫌気が立つ。
殺したくなるくらいに、苛立ってるンだよ。
よくも俺をコケにしやがって。
「ッ、そ……こ、カァア"ぁっ!!?」
「………《『零冷雷光 - 纏』》ッ____!!」
振り向いた刹那
目の前に居るシーファ。
____獲物を狩る様な目で。
手に氷と、雷と光を纏っている。
そんな拳で、顔に一撃食らわす。
*
「………また俺の技」
「シーファ、冷の事好きだもんね〜!おとーさんおとーさん言ってるし」
「だから父親じゃねェッての。寧ろ母親ポジションだし」
「………私が母親だからね」
…………
「「「!!!?」」」
「エッ………え、あの子………メアの娘なの?!」
目を大きく見開いて刀子が問う。
「……そうだよ?」
「………道理でメッチャ強い訳だな。
………母親譲り、か」
「…………え?でも……あれ?メアって中学生……高校生くらいだよね?あの子、5歳から…10歳に満たないくらいだけど……んんん???」
「………私の年は言わない。
まあ、此処にいる全員より全然年上だけどさ。無論、ライアよりも」
「「「……!!!!?」」」
「……因みにシーファは8歳だから」
「………僕と、同い年……ですか?!」
吃驚マン____☆
*
「ッ……ガ………」
「………っふぅ……」
顔面にモロ攻撃を食らった閼不杜。
戦闘________
『ッ……勝者!北ギルド、シー____………
……え?!』
「………ッチ……ってェ………なァ……!?」
ユラ……と立ち上がる。
「………………………」
____お母さんに、わたしたちの力は本気で使えば、世界の均衡が崩れる、って言われた。
だから、本気なんて、全然出してない、けど。
…………………____
「………立ち、ますか」
「…ッハ……ァ……ハハ……!!本気で向かって来ねェッて………俺も相当舐められたモンだなァ………?!」
「………わたし、は………本気が出せない。……いや、本気を出しちゃいけないんです」
「………へェ?」
「世界の均衡が、崩れてしまう、から……」
「………ヘェ?例えば?」
「………
世界が一瞬で壊れるくらい、ですかね」
____世界は、お母さんのお母さんが創った。
でもその反面、わたし達は同威力、それ以上の破壊の力を持っている(かもしれない)。
…………何もしなくても、力がドンドン増えていくばかり____
____世界が一瞬で壊れるくらい。
その言葉を聞いて、ニィ…と嗤う閼不杜。
「ッへ………ア…ハハハ!!世界が一瞬で壊れるくらいネェ……上等上等ォ!いいじゃねェか………何ならよォ……
壊す気で俺にブツかって来いや餓鬼がよォォ!!?」
「…………莫迦ですか?」
「……あん?バカだって?何ならその言葉引っ繰り返す様に本気出させてやるよ。
………ハハハ!!此の姿になった事はあまり無いんだがなァ………俺を此処まで本気にさせてくれた礼だ………ァハハ____
死にやがれ!!《『死体喰の蒼電』》____
ッ____ハァァッ!!」
「ッ……?!」
*
「……最終奥義、ね。其処まで追い詰めたか」
「えっ…うわ、何アレ……」
「……"憑依技"、でござるか」
「斬鉄、正解。えっと……ブルーサンダーゴン、だっけ?そんな竜を宿してる」
*
閼不杜の身体の周りには、蒼くパチパチ、否バチバチと電気がある。
「………属性に、黄色、電気を追加ですか?
…………」
ふーん、と如何にも詰まらなさそうな顔をするシーファ。
「………ン、つまんねェってか?
雑談は終わりだ。面白くさせてやんよ……ォ……!
これでも食らいやがれ!!ハァッ!!」
グッと拳を握る。
拳にはビリビリと電気____
其れを天に向かって放つ様に、
手を伸ばす。
ゴロ、
ゴロ…ゴロ………
雲行きが怪しくなる。
ポツポツ、と雨が降り始める。
「うっわマジかよ……雨?」
「傘、傘〜!」
「………雨、雷………」
「感電しやすいよなァ?痺れて戦闘不能にしてやるよ!!
《『蒼電風雨』》____
ッラァッ!!」
上から
前から
蒼電が、来る。
「ッ………」
____水、何故水は電気を通すのか。
真水は元々電気を通さない。
様々な物質____そう、水道水は塩素が、海水は塩こと塩化ナトリウムが溶けているから。
電解質の物質が電気を通すから、水は電気を通すのである。
水の性質をそのまま変える事をしても良い。不要物を取り出しても良い。
然し____
____水には炎。
雷には、風を____
「《『風焔(リーフリヤーフショーラ)』》____
焔は舞って、風は荒れ狂って
ッヤァ!!」
一瞬、シーファの身体が赤く光る。
ボウッ!!
雨水が、水が、雲が、消える。
然し蒼電は降り注ぐ。向かって来る。
今度は、翠色に光る。
同威力の風を雷に向かって、放つ!
*
「ッ……何だ、あの火力!!?」
「雲まで蒸発させやがった………」
「……え、電気に風?」
殆どがポカンとした表情。
火力もそうだが、
雷に風、とは?
「八卦、って知ってる?」
高い声が聞こえる。
発したのはクレル。
「………八卦?」
「太極図とか、知らない?……まあいいや。
炎に水、雷に風は其々相対関係にあるんだ。
其れを同威力でぶつけ合うと如何なる?
____打ち消し合うんだよ」
ニッコリと笑う。
*
風と蒼電がぶつかり合う。
威力は同じ。
____打ち消し合う。
「っ……ふぅ………
………あれ?」
____居な____
「此方だよ、ッラァ!!」
「っあ!!」
シーファが雨と蒼電に対応している間に、身体に纏った電気で自らの筋肉を加速させて背後に回って居た閼不杜。
御返しだ、と言わんばかりに容赦の無い蹴りを食らわす。
「っ、く……!」
ビリビリ、と電気が身体を流れる。
反撃をさせる暇なんて与えない。
次々と攻撃を与える。
「オラオラオラ!!先刻の威勢は如何したァ?!」
____ッチ、此の餓鬼………不安定な体勢から徐々に攻撃を受け流してるな……____
……………………
「………動揺は、一瞬の油断、です。お母さんが言ってました。
未だ未だ、です。他の人達には勝てるかも。
でも、わたしには、わたし達には勝てない。
____こんごう、しゅぞく?で、産まれて来た、名誉あって、悲しい種族には、勝てないです。
………でも、お母さん達、東ギルドには此処で勝たないと、いけない事があるっぽい、ですから。
わたしは、負けを認めます」
一瞬、シーファの動きが止まる。
____故意。
____っ止まった?!
……ッハ、何を考えたかは知らねェが……
貰った!!____
「ッルァッ!!!!」
「ぃぁっ……!!」
____威力は成る可く最小値に、他の力は吸収する。
シーファの身体が吹っ飛び、
____動かなくなる。
『……………………。
……!?ッしょ、勝者!!東ギルド、禰黒魔 閼不杜!!』
「ッハハハハハ!!!如何だ、見たかメアさんよォ?東ギルド奴等よォ?!
此れが俺の実力だ!!」
「…………………」
____………御免なさい、皆。
でも、此処で若しわたしが勝ってたら、絶対に進めていかなければならない未来への道が、途切れてしまうと思ったから。
………わたしは、態と負けた____
*
「っえ、か、勝った……?」
「………ありゃ、娘ちゃん………凄い吹っ飛ばされたけど、大丈夫ですか姐さん?」
「…………嗚呼、大丈夫。……シーファ、態と負けたんだ。
………戦いに出してしまった事には、閼不杜と戦わせてしまった事には後悔しかない。
……軽い擦り傷で済んで良かった」
「………結局あんだけ攻撃受けてても、ちゃんと受け流してて、最後の攻撃も吹っ飛ぶ程度の力以外は全部吸い取ったみたいだから…………まあ軽傷、ってところかな。ホラ、直ぐ立った」
指差す先には、服に付いた埃などを手で払って起き上がるシーファ。
「「「………………あれだけ攻撃食らって軽傷って………」」」
「……じゃ、私はシーファを迎えに行く。次に出る奴等は、控えといて。
身も心も、ね?批判は未だ食らい続けると思うから」
*
*
「っ、ふぅ………」
____わたしが態と負けたの、お母さん達くらいかな、見抜けたの。
………相手もちゃんと、ハマってくれた。
あの驚きから、気付いてない、よね。
…………____
「………っ、ごめん……なさい………」
____屹と、此の先に進む未来は
夢に囚われた人達を救う術になる。
………………____
運命を取るか、北ギルドを取るか____
少女は、運命を取った。
負けてしまっても、皆の目的は同じ。
____夢の監獄から出る事。
その為に、少女は負けた。
小さく、仲間に呟いた。
試合の前に、脱退届は出した。
もう、母の元へ行く準備は出来ている。
「____シーファ」
「っ、お母さん!」
背後から聞こえる、透き通った綺麗な声。
愛しい、母の声。
目には光が射さずとも、目を細めてにこやかに微笑むモノは、とても優しい。
「………準備は、いいみたい。
じゃあ、行こっか、東ギルドへ」
「うんっ!」
手を差し出すメア。
差し出された手を、小さな手でぎゅっと握りしめ、東ギルドの控室へ向かう。
____二週間だけ、たった二週間だけだったけど
ありがとう、ございました____
*
*
____少し経ち、南ギルド先鋒戦へ____
「ッ、ふぅ………先鋒、私が先鋒……」
軽い呼吸をして、息を整える悠。
「……………………」
____『氷は造形。
如何に素早く、強固に作れるか』____
____『御前には、未だ力が全然足りない。
オメガオーラに頼り過ぎだ』____
冷の言葉が突っかかる。
然し彼の言う事はごもっとも。
『塵も積もれば山となる』____小さな積み重ねも、次第には大きくなる。
十二騎士のメンバーの殆どは、其の小さな積み重ねを、大きな力を得た途端に目から逸らしてしまっている。
だから、何時迄経っても未熟なのである。
レジスタンスメンバーが、追加されたのである。
____昔を見返せ、力を得る秘訣は其処にある。
「………何よ、小さな積み重ねって。
____負けろって言う事?
…………小さな積み重ね、初めの頃。小さな吹雪しか吹かせることが出来なかった。
小さな剣、玩具みたいな、使ったら直ぐに壊れちゃう様な剣しか作れなかった。
………………」
少女は、騎士達は、悩みに悩み続ける。
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筆者:kd 読者:359 評価:0 分岐:1
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kd #1 - 18.01.06
すごく面白い☆
ま、まずい!!次俺だ…(次書き込んだのは自分)
コピーがめちゃくそ大変だ…
コピーがめちゃくそ大変だ…
結城 #288 - 18.01.06
なんか反映されてなさげだったんでコピペしてはっつけました。
長くなると段々と飽きてくる性分がなぁ……受験だしなぁ………()
長くなると段々と飽きてくる性分がなぁ……受験だしなぁ………()