これまでのあらすじ
『病迷悪夢』
(8800字です、切りながらでも御読みください)
「………で、金石 十………?………ふーん?」
ジトーっとした半目で言い返す
「…………ッ…………兎に角、拳は僕が治す」
「「「(…………あ、話逸らした)」」」
一斉に無言になる空間
…………………………
「…………だが、此の病って白血病の類だろ?」
ボソリと呟く婪
「……?何が言いたい」
「つまりは、"外からも治さなくてはいけない可能性がある"って事。外、とは現実世界。
抑も、此処は夢世界。私達の意識なんだ。…………普通に見る夢で、夢の中で何かに当たった時に『痛い』と思う事はあるか?
………現実で何かに直面していない限り、そうは思わない」
「でも、此処では不思議と痛覚を感じられる。あたし達、生身はベッドの上とかにあるからね〜。普通だったら壁に当たったりしない限り痛みは感じないけど、今は此処で刺されたりした時の、焼ける様な痛みはハッキリとする。夢で受けた痛みが、現実に影響して、再び夢に戻って来る。
……………現実と、感覚がリンクしている」
拳の、夢世界で侵された此の病は、婪が呟いた通り、現実で言うと白血病の類である
抑も、夢で病に侵される、なんて事自体可笑しい。痛みは有り得る。然し病は可笑しい
夢で病類の影響が出たとしたら、其の発端は現実にある
つまり、拳は現実世界で、白血病に侵されている可能性が有る
夢で抑えても、現実で抑えなくては、再び夢に侵食してくる
「………多分、少し前から発症していたのかもしれない。其れが先の戦いによって、身体に負荷が掛かって、侵攻を早めた。
外から治す術、然も数秒でそうする術が一つある。此処からは、十………だっけ?御前が治せ。多分、能力か何かで病原菌を吸い取るんだろう」
「………御名答」
メアの推理に何か悔しそうな顔をする十
だが今度はメアが何か悔しそうな顔をする
否、悩んでいる?
「外からだが……………うーん、生憎私はヘッドギアで頭が塞がれているから外に言伝が出来ないんだよなぁ……………。………?」
うーんうーん、と首を傾げる
と、何か引っ張られている感覚
メアの服の袖をぐいぐいと引っ張りながら、人差し指で私!私!!と自身を指差しているクレルが居た
「…………其の手があった。クレル、一度外に出る事は出来るよね?」
「当たり前田のクラッカー!!」
「「「ネタ古ッ!?」」」
昭和のネタである。実に古い
ニシシ、と笑う
「だってあたし、というかあたし達、元は意識だけの存在だから。外に生身は無い状態よ。先刻あんな事言ったけど」
会話の内容が意味不明である
意識だけの存在?
外に生身は無い状態?
意味が分からないまま、話は続く
「じゃあ、一度外に出て、あの姉妹に今の事を言って。」
「りょーかいっ!」
「「「………。
……………!!?」」」
スゥ………とその場からクレルの姿が消える
「えっ?
…………何が起きた?」
「夢から覚めただけ。現実に戻ってるんだよ」
「…………否、でも、幻影の石が無いと戻れないんじゃ…………」
「私達…………えっと、私とクレルと冷ね。少し特殊な方法で夢世界に入ったんだ。ほら、前に行ったでしょう?調査員、だって」
此の場、冷以外全員唖然
「調査員なのに、病に侵されたら、ねぇ?」
ニヤリと笑う、メアであった
謎が多い
*
*
*
____現実世界
「っほっ、と!…………うわぁ、荒れてる」
目覚めた___否、現実世界に降り立ったクレル
場所は天道家、隣にはヘッドギアを着け眠るメア
然し、家はごちゃごちゃとしている
周りに、大きな音が響く
「………んあ、どしたのクレセル?うわっ、ちょっ、近付くな獣!!気持ち悪いわ!!」
「何かレイラにでも言われた、のッ!!?」
「てか何だよ此奴等よォ!!」
「家の主が居ない間に襲撃ねェ…………ハッ、趣味悪ィ!」
其処には、二人の少年と二人の少女
少女達は、顔が似ている。一卵性双生児だろうか
其れから、奇妙な生物
実は、クレルが来る前もこうなっていた
____月崎 神
マッドサイエンティストなる、奴が現の家を襲撃した。研究を止める為だろうか
少年少女達。彼等もまた、メアと一心同体の存在、即ち分身体である
ギャアギャア騒ぎながらも、軽々と奇妙な生物達を殺しては消していくので、彼等も腕が立つ
「…………あれ、あの二人何処行った?あとシーファは?」
「ん、ウィルと彗羅?現とか言う此の家の主を連れて来てる。ほらぁ〜…………どっかの科学者とどっかに行っちゃったじゃん?」
どっかの科学者、とは小姫の兄の事である
納得して、ポンと手を叩く
「あ〜そだねェ〜…………ってそんな世間話する為に帰って来たんじゃない!!あのね、主人から伝言!『火之神 拳という少年の許に行って、彼の身体を治してほしい』ってさ!」
ポカンとした表情。然し手は動いている
「………火之神 拳?」
「んーとね、夢世界に居る男の子なんだけどさ、どうやら白血病に掛かってるっぽくてね、でも主人起きる事が出来ないからさ。其れに治癒能力はアンタ等姉妹に殆どやっちゃったから」
手を動かし、生物を殺しながら見つめ合う少女二人
「………つまり」
「私等が」
「「行けと?」」
「そ!命令だからね、多分」
ニッコリと笑うクレル
「…………そう、主人の命なら仕様が無いわね」
「火之神 拳ね?…………場所は……………病院?
そうそう、シーファの事なんだけど…………実は、あの子………………どうやら夢世界に潜っちゃったみたい。レイラの意識を探す為に。二週間前から起きないの。病には掛かってないけどさ」
「………は、起きない?何処に居るの?」
「………クレセル、手前の目は節穴か?母親の隣で寝てるっての」
一人の少年が指差す
眠るメアの隣にもう一つ、寝台
其処には小さな少女が____
ヒュゥ、と口笛の音が一つ
「……………ワァォ。こりゃ…………主人吃驚しちゃうね」
「じゃ、此方も言いたい事言い終えた。一寸男二人、此奴等頼むわよ!!」
「「ウィーっす了解〜っす」」(棒)
棒で返す少年達
「んじゃ、行ってくる!!」
少女達は、家から飛び立つ
「……………それじゃ、私は夢世界にもっかい入るよ。頑張れ〜」
現実世界からも、クレルの姿が消える
*
*
*
____病院
二人の少女達
『病院?』と疑問の持つ言い方をしていたが
一直線に、拳の本体が眠る病院に向かっていた
病室の窓から入り、今は拳の横に居る
病室は、やや暗い
「…………ふーん、この人間か。で、如何する、彩音?」
「うーん、さっさか治しちゃおうか、彩華」
彩音と彩華
其れが少女達の名前である
和装に身を包んだ、彩音が姉
洋装に身を包んだ、今時風の彩華が妹
二人共、片耳に蝶のような形をしたイヤリングを着けている
「別に合図とか無さそうだし…………てか、医者って、患者が病気になっているのに気付かないの?」
「………さぁ?寝てるから気付かないんじゃない?」
「ふーん、馬鹿みたい。今時は駄目だねぇ。だからレイラも人を見下し始めてるんだよ」
二人共、イヤリングを外す
そのイヤリングを上に軽く放り投げると、不思議な形をした杖に姿を変える
パシッ、とキャッチする
「じゃ、始めるよ〜、静かにね」
仮にも侵入者という身である
杖を拳の上に掲げる
「「《『天啓治癒』》」」
ポゥ…………と、暗い部屋に仄かな紫色の光が灯る
その光は、拳の身体を包み_____
……………………………
少女達は、その場から立ち去った
果て、拳の身体は如何なったか?
*
*
*
____夢世界
パッと、姿を現すクレル
「やほー、ただいま〜!」
「御帰り。如何だった?」
「ちゃんと承諾してくれたよ。多分、今は向かってる最中」
「…………お疲れ様」
……………………………
「………で、僕は何時、やればいい?」
十が突然、言を発す
「何時?そうだね……………拳の身体が光り始めてからかな?だからスタンバイしろ」
「…分かった」
「「「…………………」」」
無言な此の空間
先刻から、色々と起き過ぎていて頭が追い付かない人が多い
拳が病に侵されているわ、突然誰か来るわ、クレルが消えるわ……………
「…………あ、そうだ主人。一寸、耳貸して」
またクイクイと、メアの服の袖を引っ張るクレル
しゃがみ、耳を貸すメア
クレルがコソコソと話す
「………_____________…………」
「……………ッ!?」
目を大きく見開く
と同時に、拳の身体が光り出す
「……ッ………タイミングが…………。
……多分、此の会場に居るかもしれない。…………探してくる」
「えっ、ちょっ、主人!?」
医務室から走り出るメア
「おい、光ったぞ!!………って、!?」
「…………ハァ…………。あたしが言うよ。十クン、今が治す好機!ほら、能力!!」
「ッ了解!!」
能力を放つ十
夢と現実での治癒作業
病原菌を、吸い取る十
十の能力は、"強喰"。本来は、相手の肉を食べて、其の相手の能力や力を得るという代物である
だが、其の能力を応用して、このような事も出来る
___徐々に光が薄まっていく
そして、消える_____
「ッ……………ハァっ…………全て、吸い尽くした………」
「んーお疲れ!後は少しすれば、目を覚ますよ」
「……………すげぇ」
「ふぁ…………何、今の」
「良かっ…………良かっ、たぁ………っ!」
感激する者も居れば、驚く者も居て、拳が生き延びた事で泣いてしまう者も居た
無事、成功
*
*
*
闘技場の内部に響く、足音
「ッ………何処……………何処だ……………?」
メアが、何かを探している
____『シーファが、此の世界に居るって』____
「シーファ…………ッ………、何処……!」
走り続けるメア
と、ピタリと止まる
___モニターを見て
次の試合は、東と北ギルドの戦いである
最初は先鋒戦、東からはククロが出る
モニターには、先鋒から大将までの選手の名簿がある
その中の、北ギルドの大将
____北ギルド、大将 - シーファ
………………
北ギルドの控室へ走り出す
*
*
____北ギルド、控室
椅子に座る、小さな女の子
其の少女こそ、対東ギルド戦にて大将を務める、シーファ
足をぷらぷらとさせながら、ある事を思う
____東ギルド…………お母さんが居るかもしれないところ。
……………何で、わたしは戦いたくないってあれ程言ったのに………。
力加減を間違えれば、この前みたいに、森が吹っ飛んじゃうのに…………____
少女は、其の力が強過ぎるあまりに、嫌々代表にさせられた。本人の意思とは関係なく
力加減は、出来ない
したくても、出来ない
母が居なければ、何も出来ない小さな子供
なのに大将を任されてしまった
否、其れ以前に、戦いに出されてしまった
「お母、さん…………」
「……?まーだ考えてんのか、母親の事?」
「うひゃっ!!?
…………ユスタ、さん………?」
後ろから顔を覗かせる、中堅のユスタ
種族は男性では珍しい、女神族。つまり夢の住人である
女神族故、見た目は女性と一瞬見間違えそうなくらい綺麗なのだが、よく見れば男である
「…………はい。抑もわたしが此処に来たのは、お母さんを、お母さんの意識を探す為。
…………………」
俯くシーファ
「……で、其れが東ギルドに居るって?
ふむ……………一寸顔見せてみ」
「はい?」
顔を上げる
ジーッと見るユスタ
「……………?」
普通、男性に顔をまじまじと見られたら赤面するモノだが、シーファは男性には疎いのか
普通に疑問符を浮かべるだけ
「……………どっかの誰かに似てるんだよなぁ………………誰だっけ」
「………???」
うーん、と首を傾げて考えだすユスタ
____誰かに、似ている?____
と、外が騒がしい
外、と言うよりは控室の外、つまり廊下であるのだが
「っオイ、ちょっ、御前東ギルドだろ!!?」
「煩い、退いて」
揉めているのは、北ギルドの男性選手と、聞くところ、東ギルドの選手(?)。女性の声である
____…………あれ、此の声何処かで………?
「………ッ御前、前大会の優勝者か?…………ウチのギルドに何用で?」
ユスタが対応する
避ける様に少し身を引く男性選手
其の時、一瞬だけ顔が見えた
「…………ぁ、さ……………ん」
ポロリと、口から単語が漏れ出た
____お母さん
椅子からぴょんと降り、控室の入り口へ走り出すシーファ
ただ只管、走る
「…………ん、如何したシー…………おわっ?!!」
「お母さーん!!」
「ッと……………シーファ!?」
女性に、否、少女に飛び付く
東ギルドの少女で、前大会の優勝者
メアである
「「「……………!!?」」」
目を見開く、周りの人達
__えっ、お母さん?姉妹じゃないのか?
__えーっ!!!?
言を発せないくらい唖然しているが、心情では叫びまくっている周りの人達
言わずもがな、メアは見た目が中高生である。それに対し、シーファは8歳なのである
普通に、そう、普通に考えたら、歳の差的に姉妹である
が、普通ではないのが彼女、メアである
先程、中高生と言った。だが、其れは"見た目"だけの話
____中身は、実年齢は四桁
身体がただ単に、成長しないだけ
因みにその当の本人は…………
「………シーファ……………良かっ、…………!」
ぎゅっ、と愛娘を抱き締めている
___心無い化物が、涙を零す
「見つ、けた…………見つけた……!お母さんの、意識……!
………それ、と………………御免なさい………………。勝手に、夢世界に、入って来て…………」
突然謝りだすシーファ
「ッ………何を……」
「だって!……………お母さん、被験体として、此の世界に入ったんでしょ………?被験体って、実験中だったんでしょ……………?大事な、御仕事中だったのに……………勝手に…………!」
「…………何を。…………其れなら、私の方が……………。…………二年も娘を置いて、勝手に入って………………現の願いを叶える為だけどさ………………ッ………私の方が……………………
…………………御免」
ポロポロと涙を零すメア
此処まで夢世界で、彼女が泣いたのを見たのは、誰一人として居なかった
「…………それと」
スッ、と右手をシーファの頬にやる
泣き顔のまま、笑顔になって
「_____大きくなったね、シーファ」
「………ッ、うん!」
と、途端にバタバタと聞こえる音
「………………シーファ、今のその…………アンタの母さん?の微笑みで男共倒れたんだけど」
「「……………………………」」
北ギルドの女性選手が言う
顔を見合わせる母子
………………………………………
「…………シーファ、東ギルドに、来ない?」
「うんっ、行く!!」
「「「は!?」」」
一斉に目覚める
「は、ちょっ…………其れは困るって。シーファは此れから試合だって控えてる」
「だったら、試合が終わったら良い、でしょう?
…………て言うか何、此の娘、戦い嫌いなのに、何で大会にエントリーしている?否、されている?
……………本人の承諾無しに、嫌々やった、とかじゃないよねぇ?え?」
ニッコリと微笑む
然し圧が凄い
皆、目を逸らす
「……………へぇ?そうなんだァ?
殺す」
殺気を、上手くシーファに当たらない様にしながら放つ
場が凍る
「……………でも、エントリーしたからには、出るしかない。…………けど、一つ悩み事、あるよねシーファ?」
「う、うん…………。あの……………力が、抑えられないの……………」
闘力、フル解放中
「……………なんだ、そんな事か。じゃあ、どのくらい抑えたい?」
「え、うーんと……………20万、くらいかな」
「「「え!?」」」
「………私と同じくらいか。了解」
「いやいやいや……………一寸考え直してシーファ。20万?此の大会にはゴロゴロ居るぞ?」
「……………其れが、如何した?
現に私が今、20万だけど。
此処に居る全員、掛かってきても秒経たずに倒せる。
……………シーファの20万は、他で言うと億と少し。否、違うな…………。闘力は20万だけれども、それ以上に力が強い。体術も、能力も、強い。御前等よりな」
「……ッ、其処まで母親の御前が言うんだったら………………」
「…………ふふっ」
ニコリと微笑む
人差し指をシーファの額に付ける
ポゥ…………と、微かに光ったと思ったら、直ぐに消える
「はい、闘力20万になった」
「わ……ぁ!」
身体の彼方此方をペタペタと触り、見る
「…………何か、身体が軽い…!ありがとう!!」
「どういたしまして。
……………却説、私は帰るよ。仮にも、東ギルドのチームを纏めているから、ね?
また後で来るよ」
シーファを離す
「うんっ!またね〜」
手を振る
それに加えて小さく振り返す
………………
「母も母、子も子、か。
……………シーファの嬉しそうな姿、初めて見た」
ボソリと呟く、ユスタ
*
*
*
____試合
先鋒戦、ククロ対ジャンヌ
試合がまもなく、始まろうとしている
「…………」
____人形、じゃなくて体術もちゃんと。
お姉ちゃんと、クレルちゃんと、特訓したんだ。
………………人形に頼りきりにしちゃ駄目。
僕も、戦わなきゃ、自分の身は守れない____
匕首を両手に持ち、構える
「…………………」
____相手は小さい少女。否、少年って言ってたか。
……………油断大敵、暗器使いは危険。
此の試合、私が必ず勝つ____
「其れでは北東ギルド、先鋒戦。
試合、開始ッ!!」
「………で、金石 十………?………ふーん?」
ジトーっとした半目で言い返す
「…………ッ…………兎に角、拳は僕が治す」
「「「(…………あ、話逸らした)」」」
一斉に無言になる空間
…………………………
「…………だが、此の病って白血病の類だろ?」
ボソリと呟く婪
「……?何が言いたい」
「つまりは、"外からも治さなくてはいけない可能性がある"って事。外、とは現実世界。
抑も、此処は夢世界。私達の意識なんだ。…………普通に見る夢で、夢の中で何かに当たった時に『痛い』と思う事はあるか?
………現実で何かに直面していない限り、そうは思わない」
「でも、此処では不思議と痛覚を感じられる。あたし達、生身はベッドの上とかにあるからね〜。普通だったら壁に当たったりしない限り痛みは感じないけど、今は此処で刺されたりした時の、焼ける様な痛みはハッキリとする。夢で受けた痛みが、現実に影響して、再び夢に戻って来る。
……………現実と、感覚がリンクしている」
拳の、夢世界で侵された此の病は、婪が呟いた通り、現実で言うと白血病の類である
抑も、夢で病に侵される、なんて事自体可笑しい。痛みは有り得る。然し病は可笑しい
夢で病類の影響が出たとしたら、其の発端は現実にある
つまり、拳は現実世界で、白血病に侵されている可能性が有る
夢で抑えても、現実で抑えなくては、再び夢に侵食してくる
「………多分、少し前から発症していたのかもしれない。其れが先の戦いによって、身体に負荷が掛かって、侵攻を早めた。
外から治す術、然も数秒でそうする術が一つある。此処からは、十………だっけ?御前が治せ。多分、能力か何かで病原菌を吸い取るんだろう」
「………御名答」
メアの推理に何か悔しそうな顔をする十
だが今度はメアが何か悔しそうな顔をする
否、悩んでいる?
「外からだが……………うーん、生憎私はヘッドギアで頭が塞がれているから外に言伝が出来ないんだよなぁ……………。………?」
うーんうーん、と首を傾げる
と、何か引っ張られている感覚
メアの服の袖をぐいぐいと引っ張りながら、人差し指で私!私!!と自身を指差しているクレルが居た
「…………其の手があった。クレル、一度外に出る事は出来るよね?」
「当たり前田のクラッカー!!」
「「「ネタ古ッ!?」」」
昭和のネタである。実に古い
ニシシ、と笑う
「だってあたし、というかあたし達、元は意識だけの存在だから。外に生身は無い状態よ。先刻あんな事言ったけど」
会話の内容が意味不明である
意識だけの存在?
外に生身は無い状態?
意味が分からないまま、話は続く
「じゃあ、一度外に出て、あの姉妹に今の事を言って。」
「りょーかいっ!」
「「「………。
……………!!?」」」
スゥ………とその場からクレルの姿が消える
「えっ?
…………何が起きた?」
「夢から覚めただけ。現実に戻ってるんだよ」
「…………否、でも、幻影の石が無いと戻れないんじゃ…………」
「私達…………えっと、私とクレルと冷ね。少し特殊な方法で夢世界に入ったんだ。ほら、前に行ったでしょう?調査員、だって」
此の場、冷以外全員唖然
「調査員なのに、病に侵されたら、ねぇ?」
ニヤリと笑う、メアであった
謎が多い
*
*
*
____現実世界
「っほっ、と!…………うわぁ、荒れてる」
目覚めた___否、現実世界に降り立ったクレル
場所は天道家、隣にはヘッドギアを着け眠るメア
然し、家はごちゃごちゃとしている
周りに、大きな音が響く
「………んあ、どしたのクレセル?うわっ、ちょっ、近付くな獣!!気持ち悪いわ!!」
「何かレイラにでも言われた、のッ!!?」
「てか何だよ此奴等よォ!!」
「家の主が居ない間に襲撃ねェ…………ハッ、趣味悪ィ!」
其処には、二人の少年と二人の少女
少女達は、顔が似ている。一卵性双生児だろうか
其れから、奇妙な生物
実は、クレルが来る前もこうなっていた
____月崎 神
マッドサイエンティストなる、奴が現の家を襲撃した。研究を止める為だろうか
少年少女達。彼等もまた、メアと一心同体の存在、即ち分身体である
ギャアギャア騒ぎながらも、軽々と奇妙な生物達を殺しては消していくので、彼等も腕が立つ
「…………あれ、あの二人何処行った?あとシーファは?」
「ん、ウィルと彗羅?現とか言う此の家の主を連れて来てる。ほらぁ〜…………どっかの科学者とどっかに行っちゃったじゃん?」
どっかの科学者、とは小姫の兄の事である
納得して、ポンと手を叩く
「あ〜そだねェ〜…………ってそんな世間話する為に帰って来たんじゃない!!あのね、主人から伝言!『火之神 拳という少年の許に行って、彼の身体を治してほしい』ってさ!」
ポカンとした表情。然し手は動いている
「………火之神 拳?」
「んーとね、夢世界に居る男の子なんだけどさ、どうやら白血病に掛かってるっぽくてね、でも主人起きる事が出来ないからさ。其れに治癒能力はアンタ等姉妹に殆どやっちゃったから」
手を動かし、生物を殺しながら見つめ合う少女二人
「………つまり」
「私等が」
「「行けと?」」
「そ!命令だからね、多分」
ニッコリと笑うクレル
「…………そう、主人の命なら仕様が無いわね」
「火之神 拳ね?…………場所は……………病院?
そうそう、シーファの事なんだけど…………実は、あの子………………どうやら夢世界に潜っちゃったみたい。レイラの意識を探す為に。二週間前から起きないの。病には掛かってないけどさ」
「………は、起きない?何処に居るの?」
「………クレセル、手前の目は節穴か?母親の隣で寝てるっての」
一人の少年が指差す
眠るメアの隣にもう一つ、寝台
其処には小さな少女が____
ヒュゥ、と口笛の音が一つ
「……………ワァォ。こりゃ…………主人吃驚しちゃうね」
「じゃ、此方も言いたい事言い終えた。一寸男二人、此奴等頼むわよ!!」
「「ウィーっす了解〜っす」」(棒)
棒で返す少年達
「んじゃ、行ってくる!!」
少女達は、家から飛び立つ
「……………それじゃ、私は夢世界にもっかい入るよ。頑張れ〜」
現実世界からも、クレルの姿が消える
*
*
*
____病院
二人の少女達
『病院?』と疑問の持つ言い方をしていたが
一直線に、拳の本体が眠る病院に向かっていた
病室の窓から入り、今は拳の横に居る
病室は、やや暗い
「…………ふーん、この人間か。で、如何する、彩音?」
「うーん、さっさか治しちゃおうか、彩華」
彩音と彩華
其れが少女達の名前である
和装に身を包んだ、彩音が姉
洋装に身を包んだ、今時風の彩華が妹
二人共、片耳に蝶のような形をしたイヤリングを着けている
「別に合図とか無さそうだし…………てか、医者って、患者が病気になっているのに気付かないの?」
「………さぁ?寝てるから気付かないんじゃない?」
「ふーん、馬鹿みたい。今時は駄目だねぇ。だからレイラも人を見下し始めてるんだよ」
二人共、イヤリングを外す
そのイヤリングを上に軽く放り投げると、不思議な形をした杖に姿を変える
パシッ、とキャッチする
「じゃ、始めるよ〜、静かにね」
仮にも侵入者という身である
杖を拳の上に掲げる
「「《『天啓治癒』》」」
ポゥ…………と、暗い部屋に仄かな紫色の光が灯る
その光は、拳の身体を包み_____
……………………………
少女達は、その場から立ち去った
果て、拳の身体は如何なったか?
*
*
*
____夢世界
パッと、姿を現すクレル
「やほー、ただいま〜!」
「御帰り。如何だった?」
「ちゃんと承諾してくれたよ。多分、今は向かってる最中」
「…………お疲れ様」
……………………………
「………で、僕は何時、やればいい?」
十が突然、言を発す
「何時?そうだね……………拳の身体が光り始めてからかな?だからスタンバイしろ」
「…分かった」
「「「…………………」」」
無言な此の空間
先刻から、色々と起き過ぎていて頭が追い付かない人が多い
拳が病に侵されているわ、突然誰か来るわ、クレルが消えるわ……………
「…………あ、そうだ主人。一寸、耳貸して」
またクイクイと、メアの服の袖を引っ張るクレル
しゃがみ、耳を貸すメア
クレルがコソコソと話す
「………_____________…………」
「……………ッ!?」
目を大きく見開く
と同時に、拳の身体が光り出す
「……ッ………タイミングが…………。
……多分、此の会場に居るかもしれない。…………探してくる」
「えっ、ちょっ、主人!?」
医務室から走り出るメア
「おい、光ったぞ!!………って、!?」
「…………ハァ…………。あたしが言うよ。十クン、今が治す好機!ほら、能力!!」
「ッ了解!!」
能力を放つ十
夢と現実での治癒作業
病原菌を、吸い取る十
十の能力は、"強喰"。本来は、相手の肉を食べて、其の相手の能力や力を得るという代物である
だが、其の能力を応用して、このような事も出来る
___徐々に光が薄まっていく
そして、消える_____
「ッ……………ハァっ…………全て、吸い尽くした………」
「んーお疲れ!後は少しすれば、目を覚ますよ」
「……………すげぇ」
「ふぁ…………何、今の」
「良かっ…………良かっ、たぁ………っ!」
感激する者も居れば、驚く者も居て、拳が生き延びた事で泣いてしまう者も居た
無事、成功
*
*
*
闘技場の内部に響く、足音
「ッ………何処……………何処だ……………?」
メアが、何かを探している
____『シーファが、此の世界に居るって』____
「シーファ…………ッ………、何処……!」
走り続けるメア
と、ピタリと止まる
___モニターを見て
次の試合は、東と北ギルドの戦いである
最初は先鋒戦、東からはククロが出る
モニターには、先鋒から大将までの選手の名簿がある
その中の、北ギルドの大将
____北ギルド、大将 - シーファ
………………
北ギルドの控室へ走り出す
*
*
____北ギルド、控室
椅子に座る、小さな女の子
其の少女こそ、対東ギルド戦にて大将を務める、シーファ
足をぷらぷらとさせながら、ある事を思う
____東ギルド…………お母さんが居るかもしれないところ。
……………何で、わたしは戦いたくないってあれ程言ったのに………。
力加減を間違えれば、この前みたいに、森が吹っ飛んじゃうのに…………____
少女は、其の力が強過ぎるあまりに、嫌々代表にさせられた。本人の意思とは関係なく
力加減は、出来ない
したくても、出来ない
母が居なければ、何も出来ない小さな子供
なのに大将を任されてしまった
否、其れ以前に、戦いに出されてしまった
「お母、さん…………」
「……?まーだ考えてんのか、母親の事?」
「うひゃっ!!?
…………ユスタ、さん………?」
後ろから顔を覗かせる、中堅のユスタ
種族は男性では珍しい、女神族。つまり夢の住人である
女神族故、見た目は女性と一瞬見間違えそうなくらい綺麗なのだが、よく見れば男である
「…………はい。抑もわたしが此処に来たのは、お母さんを、お母さんの意識を探す為。
…………………」
俯くシーファ
「……で、其れが東ギルドに居るって?
ふむ……………一寸顔見せてみ」
「はい?」
顔を上げる
ジーッと見るユスタ
「……………?」
普通、男性に顔をまじまじと見られたら赤面するモノだが、シーファは男性には疎いのか
普通に疑問符を浮かべるだけ
「……………どっかの誰かに似てるんだよなぁ………………誰だっけ」
「………???」
うーん、と首を傾げて考えだすユスタ
____誰かに、似ている?____
と、外が騒がしい
外、と言うよりは控室の外、つまり廊下であるのだが
「っオイ、ちょっ、御前東ギルドだろ!!?」
「煩い、退いて」
揉めているのは、北ギルドの男性選手と、聞くところ、東ギルドの選手(?)。女性の声である
____…………あれ、此の声何処かで………?
「………ッ御前、前大会の優勝者か?…………ウチのギルドに何用で?」
ユスタが対応する
避ける様に少し身を引く男性選手
其の時、一瞬だけ顔が見えた
「…………ぁ、さ……………ん」
ポロリと、口から単語が漏れ出た
____お母さん
椅子からぴょんと降り、控室の入り口へ走り出すシーファ
ただ只管、走る
「…………ん、如何したシー…………おわっ?!!」
「お母さーん!!」
「ッと……………シーファ!?」
女性に、否、少女に飛び付く
東ギルドの少女で、前大会の優勝者
メアである
「「「……………!!?」」」
目を見開く、周りの人達
__えっ、お母さん?姉妹じゃないのか?
__えーっ!!!?
言を発せないくらい唖然しているが、心情では叫びまくっている周りの人達
言わずもがな、メアは見た目が中高生である。それに対し、シーファは8歳なのである
普通に、そう、普通に考えたら、歳の差的に姉妹である
が、普通ではないのが彼女、メアである
先程、中高生と言った。だが、其れは"見た目"だけの話
____中身は、実年齢は四桁
身体がただ単に、成長しないだけ
因みにその当の本人は…………
「………シーファ……………良かっ、…………!」
ぎゅっ、と愛娘を抱き締めている
___心無い化物が、涙を零す
「見つ、けた…………見つけた……!お母さんの、意識……!
………それ、と………………御免なさい………………。勝手に、夢世界に、入って来て…………」
突然謝りだすシーファ
「ッ………何を……」
「だって!……………お母さん、被験体として、此の世界に入ったんでしょ………?被験体って、実験中だったんでしょ……………?大事な、御仕事中だったのに……………勝手に…………!」
「…………何を。…………其れなら、私の方が……………。…………二年も娘を置いて、勝手に入って………………現の願いを叶える為だけどさ………………ッ………私の方が……………………
…………………御免」
ポロポロと涙を零すメア
此処まで夢世界で、彼女が泣いたのを見たのは、誰一人として居なかった
「…………それと」
スッ、と右手をシーファの頬にやる
泣き顔のまま、笑顔になって
「_____大きくなったね、シーファ」
「………ッ、うん!」
と、途端にバタバタと聞こえる音
「………………シーファ、今のその…………アンタの母さん?の微笑みで男共倒れたんだけど」
「「……………………………」」
北ギルドの女性選手が言う
顔を見合わせる母子
………………………………………
「…………シーファ、東ギルドに、来ない?」
「うんっ、行く!!」
「「「は!?」」」
一斉に目覚める
「は、ちょっ…………其れは困るって。シーファは此れから試合だって控えてる」
「だったら、試合が終わったら良い、でしょう?
…………て言うか何、此の娘、戦い嫌いなのに、何で大会にエントリーしている?否、されている?
……………本人の承諾無しに、嫌々やった、とかじゃないよねぇ?え?」
ニッコリと微笑む
然し圧が凄い
皆、目を逸らす
「……………へぇ?そうなんだァ?
殺す」
殺気を、上手くシーファに当たらない様にしながら放つ
場が凍る
「……………でも、エントリーしたからには、出るしかない。…………けど、一つ悩み事、あるよねシーファ?」
「う、うん…………。あの……………力が、抑えられないの……………」
闘力、フル解放中
「……………なんだ、そんな事か。じゃあ、どのくらい抑えたい?」
「え、うーんと……………20万、くらいかな」
「「「え!?」」」
「………私と同じくらいか。了解」
「いやいやいや……………一寸考え直してシーファ。20万?此の大会にはゴロゴロ居るぞ?」
「……………其れが、如何した?
現に私が今、20万だけど。
此処に居る全員、掛かってきても秒経たずに倒せる。
……………シーファの20万は、他で言うと億と少し。否、違うな…………。闘力は20万だけれども、それ以上に力が強い。体術も、能力も、強い。御前等よりな」
「……ッ、其処まで母親の御前が言うんだったら………………」
「…………ふふっ」
ニコリと微笑む
人差し指をシーファの額に付ける
ポゥ…………と、微かに光ったと思ったら、直ぐに消える
「はい、闘力20万になった」
「わ……ぁ!」
身体の彼方此方をペタペタと触り、見る
「…………何か、身体が軽い…!ありがとう!!」
「どういたしまして。
……………却説、私は帰るよ。仮にも、東ギルドのチームを纏めているから、ね?
また後で来るよ」
シーファを離す
「うんっ!またね〜」
手を振る
それに加えて小さく振り返す
………………
「母も母、子も子、か。
……………シーファの嬉しそうな姿、初めて見た」
ボソリと呟く、ユスタ
*
*
*
____試合
先鋒戦、ククロ対ジャンヌ
試合がまもなく、始まろうとしている
「…………」
____人形、じゃなくて体術もちゃんと。
お姉ちゃんと、クレルちゃんと、特訓したんだ。
………………人形に頼りきりにしちゃ駄目。
僕も、戦わなきゃ、自分の身は守れない____
匕首を両手に持ち、構える
「…………………」
____相手は小さい少女。否、少年って言ってたか。
……………油断大敵、暗器使いは危険。
此の試合、私が必ず勝つ____
「其れでは北東ギルド、先鋒戦。
試合、開始ッ!!」
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筆者:Kd 読者:302 評価:0 分岐:1
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このストーリーの評価
Kd #0 - 17.11.09
すごく面白い☆
ククロちゃんきになるます
結城 #0 - 17.11.09
現実世界で出てきた方達は、多分もう出ないかなぁと。でも、現さんが出てきた時にもっかい出るやも
……………果て、何処かでククロちゃんの正体でも明かそうかね
……………果て、何処かでククロちゃんの正体でも明かそうかね