痒いところに手が届いた名著

ふつう専門書に感動することはないのだが、
これは違った。
僕も専門医として必要に迫られて、
腎臓の組織検査に関する書物は海外のものも含めて少しは読んできたものだ。
しかし臨床医の立場からいうと分かりにくいというのが本音である。
とくに治療学における腎生検の位置づけとなるときわめて不明瞭な感じがしていた。
本書はとにかくわかりやすい。
一気呵成に読んでしまった。
著者の生の（？）言葉が鏤められているため、
難しい内容が明解につたわってくる。
些末なことはもちろん、
贅肉の一切がバッサリ切り捨てられ、
根幹の大切な部分だけが語られている。
それに特筆すべきは、
用いられた標本カラー写真の美しさである。
これだけでも本書を所有する価値がある。
しかも所見のポイントが実に分かりやすく解説されている。
そして常に治療の視点がわすれられていないところなどは、
著者が練達の臨床家であることを窺わせる。
医学生や研修医にとって親切で明解な入門書であると同時に、
僕ら専門医にとっても頭の中をスッキリ整理し直してくれる高度な専門書でもある。
まさに達意の書物ということができる。