秘伝「書く」技術 (知のトレッキング叢書) の感想

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これを読むと、著者が何をどう考えて小説を書いているかがよくわかります。
プロの作家の意識、心構え、作品に対する態度などなど。

小説の技法に関する言及は少ない。
あるにはあるが、それは夢枕獏という作家にとって有効な方法でしかなく、
夢枕獏になろうとする者以外にとってはあまり役にたたないかもしれない。
しかも、そうなるためには技法以上の獲得不可能な資質が必要であるように思われるし、
そもそも、世の中に夢枕獏は二人も必要ではない。

技術上、一般性があると思われるのは、
1.アイディアのカード化
2.取材・調査と想像の関係性
3.「脳が鼻から垂れる」ほど考える（これは技術ではなく心構えか）
ぐらいで、それほど目新しいものはないようです。
事前にプロットを細部まで詰めないという創作法も、
多くの作家の言及と共通するように思われました。

講義録をまとめたものであるため、
読み応えにはやや欠けます。
同種の本ではキングの『書くことについて』や、
クーンツの『ベストセラー小説の書き方』の方が、
読み物としても楽しめると思いますし、
書くことを志す人にとっては刺激的ではないかと思います。

ただ、著者の作家としての輪郭を知りたい読者にとっては、格好の書です。
数々の名作がどうやって生み出されたきたかを知るのは、とてもスリリングです。
作品世界に、これまで以上に奥行きを感じることができます。

一方で、こう考えてこう書いたという作品に対し、
「なぜ？」という疑問符も浮かびました。
著者の自己肯定の背後に潜む、ある感情も垣間見えるように思われます。