現代思想 2015年1月臨時増刊号 総特集◎柄谷行人の思想 の感想
参照データ
タイトル | 現代思想 2015年1月臨時増刊号 総特集◎柄谷行人の思想 |
発売日 | 2014-12-19 |
製作者 | 柄谷行人 |
販売元 | 青土社 |
JANコード | 9784791712908 |
カテゴリ | » 本 » ジャンル別 |
購入者の感想
この現代思想で取り上げられている著者の本にはいい意味でも
悪い意味でもある種の「中毒性」があります。
自分も20代のころ「マルクスその可能性の中心」や「隠喩としての建築」等における、
著者の徹底的に考え抜くという姿勢に影響を受けてきました。
とりわけ、貨幣の一般的価値形態の非対称性に基づく資本の暴力性、また
「探究」シリーズのウィトゲンシュタイン、というよりはむしろクリプキの議論を
土台とした単独者たる自己と他者のコミュニケーションの「危うさ」に関し、
自分は多くを学んだと感じています。
しかし、著者はその後、より「大きな」物語、すなわち社会構成体の「交換」
に基づく分析と来るべき社会の「可能性」の議論に大きく舵を切り始めます。
著者の言う四つの社会構成システムは時間軸における発展モデルではなく、
いわばそのグラデーションとして地政学的、歴史的な位置づけを担います。
著者の議論は大変魅力的で、現在連載中の四つ目の社会構成体である
「D」あるいは「X」の研究も興味深く拝読しています。
以前、著者は理論的考察の重要性を強調していましたが、その一方で
生々しいまでの「今」という「現実」、例えば中東情勢の混乱や、
米国の資本と政治の結託による貧富の著しい格差などの問題に対しては、
著者の議論はあまり有効性がないように思えます。
著者は国家の収奪に関し、収奪し続けることはできない、よって何らかの
保護を国家は与える、従ってそれはある種の「交換」だと述べています。
が、現実は搾取される人々は資本・国家の前ではひたすら「死ぬまで」、
つまり「命まで」商品として差出ねばならず搾取され続けるのではないでしょうか。
自分ももう若くはありません。今後の日本の医療制度が、TPPによって
米国の政治と大手製薬会社や保険会社に乗っ取られようとしている今、
著者の理論的探究には一定の評価はするものの、アクチュアリティーに
悪い意味でもある種の「中毒性」があります。
自分も20代のころ「マルクスその可能性の中心」や「隠喩としての建築」等における、
著者の徹底的に考え抜くという姿勢に影響を受けてきました。
とりわけ、貨幣の一般的価値形態の非対称性に基づく資本の暴力性、また
「探究」シリーズのウィトゲンシュタイン、というよりはむしろクリプキの議論を
土台とした単独者たる自己と他者のコミュニケーションの「危うさ」に関し、
自分は多くを学んだと感じています。
しかし、著者はその後、より「大きな」物語、すなわち社会構成体の「交換」
に基づく分析と来るべき社会の「可能性」の議論に大きく舵を切り始めます。
著者の言う四つの社会構成システムは時間軸における発展モデルではなく、
いわばそのグラデーションとして地政学的、歴史的な位置づけを担います。
著者の議論は大変魅力的で、現在連載中の四つ目の社会構成体である
「D」あるいは「X」の研究も興味深く拝読しています。
以前、著者は理論的考察の重要性を強調していましたが、その一方で
生々しいまでの「今」という「現実」、例えば中東情勢の混乱や、
米国の資本と政治の結託による貧富の著しい格差などの問題に対しては、
著者の議論はあまり有効性がないように思えます。
著者は国家の収奪に関し、収奪し続けることはできない、よって何らかの
保護を国家は与える、従ってそれはある種の「交換」だと述べています。
が、現実は搾取される人々は資本・国家の前ではひたすら「死ぬまで」、
つまり「命まで」商品として差出ねばならず搾取され続けるのではないでしょうか。
自分ももう若くはありません。今後の日本の医療制度が、TPPによって
米国の政治と大手製薬会社や保険会社に乗っ取られようとしている今、
著者の理論的探究には一定の評価はするものの、アクチュアリティーに
新しく進んでいく柄谷は、余人に代えられないその思考 精緻に具体的になってゆく
『トランスクリティーク』以降の柄谷思想の展開をめぐる、コンパクトながら充実した特集。これまでに柄谷特集が各社から何度も出されてきたが、論者は、文学者か『批評空間』関係者が主であった。けれども、ここに登場する論者/対談者は、一変している。かわって登場したのは、ジジェクから若手のアメリカ人学者まで、外国人が主である。日本人では、『トランスクリティーク』のころにはまだデビューしてもいなかった佐藤優が中心となっている。佐藤優は対談の冒頭で、柄谷思想の特徴はつねに生成過程にあることだと述べているが、それを読む人たちのほうも生成過程にあるということが、今回の特集からは鮮やかに伝わってくる。たとえば、こちらが知らないあいだに、外国の研究者たちが、柄谷行人を、東洋の参照軸としてではなく、世界の思想をリードする一人として批判的かつ真剣に取り上げて、各分野に位置づけて生かそうという試みを開始していたことに気づかされる。『世界史の構造』の英訳が刊行されたのは今年なので、海外での議論が深まるのはむしろこれからだろう。それを『現代思想』で継続的に紹介してほしい。