量子の逆説 (別冊日経サイエンス) の感想

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タイトル量子の逆説 (別冊日経サイエンス)
発売日2014-06-18
販売元日本経済新聞出版社
JANコード9784532511999
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「場と粒子のどちらも世界の基本ではないならば、何が基本になるのか。一部の研究者は、世界の根源的には物質的なものではなく、質量、電荷、スピンといった性質の関係によって成り立っていると考えている。さらに物に帰属しない性質そのものが基本であるとの見方もある」。

過去の日経サイエンスの記事から、量子力学に関するものを集めて一冊にした本。以下の4つの章に分類されている。日本の学者が書いた記事が多い。

1.不確定性原理
2.見えない量子現象を見る
3.実在と認識の狭間
4.量子コンピューター

光子の不思議な振る舞い。ダブルスプリット実験。ハイゼンベルクの式と小澤の不等式。プランシアードの不等式。量子テレポーテーション。量子もつれ。弱測定。ベルの不等式。ミクロ世界の非可換性。量子ベイズ主義。4つの解釈(コペンハーゲン解釈、ガイド場解釈、多世界解釈、自発的収縮理論)。確率と量子状態。場の量子論。イオンで作るコンピュータ。量子力学の多重現象の操作と測定。ボース・アインシュタイン凝縮のコンピュータへの応用。D-Wave。

量子力学の世界はマクロの世界の常識が通用しないので、慣れないととっつきにくいものがある。ましてや、本書の内容は、現在の量子力学の常識をさらに超えるものやその可能性を示しているものがいくつか含まれている。よって、はっきりいって難解である。ほとんどこれは物理というよりは哲学の領域に近いのではないかと思われるものすらある。量子力学についてある程度の知見がないと非常に難しく感じるのではないかと思う。しかしその一方で、マクロの世界では味わえない面白さがあり、いつの間にか常識的なものの見方に固まった脳をここちよく揺さぶってくれる内容となっている。

この別冊は、充実しているがその中で一つ小澤の不等式を取り上げたい。
量子力学とは、物理に初めて登場した認識論的科学である。我々は、何を知り得るか、自分の認識とは何かと云うことである。

ハイゼンベルクは思考実験により、小澤は論理という武器により物理的に可能なあらゆる測定過程を「完全正値インストルメント」(=数学的表式)で記述できることを見い出した。
ハイゼンベルクは、観測される側の物体が元々備えている量子ゆらぎ、観測によって物体の状態に生じる乱れをごた混ぜにしてる。
そしてその式は、「測定対象の状態と測定による誤差や乱れとの間に相関がない場合」と云う暗黙の前提が入っている。
小澤の不等式とは、位置の測定誤差ゼロの測定が実現し得る。また、誤差と擾乱の両方がゼロになっても不等式が成立する。どのような観測をしても必ず成立する。無限にゆらいでいるものを正確に測ることは可能なのである。
ハイゼンベルクの式との最大の違いは、全ての測定について成り立つ普遍的な測定理論から数学的に導かれており、全て数式によって表現されているということにある。

小澤不等式の齎すものは、精密測定への応用である。これまで誤差を小さくするためにはゆらぎを小さくするしかないと考えられていたが、わざとゆらぎの大きな状態を作り誤差と擾乱を小さくするという方策があることを示した。具体的方策として、重力波検出、宇宙背景放射測定、ニュートリノの観測等が考えられる。

量子力学は、観測の前と後がどうなっているかは語るが、その間は空白のままである。式では書けない飛躍とされそれは寧ろ哲学の問題と見做され手を出さない。うっかり手を出すと「あいつはもう終わった」と思われかねないそうである。物理学業界とはそうしたものらしい。
小澤は、幸か不幸かその外にいたため哲学への関心と共に「自分の認識とは何か」という問題に興味を持っていた。それは、観測の理論をきちんと組み立てないとわからないものなのである。
物体、測定機械、人間の三者の相互作用の複雑な過程の組み合わせが、小澤によってどの部分が物理学で解明されどの部分が空白なのかが明確となった。これが最大の功績である。

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