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『私の声が届くまで』
この物語は 恋愛 です
1章.私の声が届くまで読者597 評価2 分岐2
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14.11.01
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持っていたものを失うということ。
持っていなかったものを得るということ。

この世界はいつも取捨選択の上に成り立っている。
私は器用な人間ではないから、これからも何かを失っていくのだと思う。
でも、何があっても失いたくないと思ったのは初めてだった。

隣で笑う彼を見る。
ステージの上にはきらびやかな衣装を纏った女性が、歌を歌っている。
あまりの眩しさに私には目が眩みそうだ。
彼が不意にこちらを向き、楽しいかいなんて屈託なく見つめられる。
彼の優しい目に私が映るとき、私の鼓動は速まる。
肩が触れ合う程の距離だ。
だが、彼と私の間には厚い壁がある。
それは私が勝手に造り出したものだろう。
現に彼はとても優しい。
でもそう思わずにはいられなかった。

彼の大きな手が差し出された時、これは罠だと彼を疑った。
無秩序な深い闇の世界で、信じられるものなんて自分しかいない。
生きる為に武器を持て。
そんな世界で、弱い私はいつも短剣を手にしていた。
刃を握れば紅く血が滴る。
体にこびりつく血と闇。
切れた皮膚の痛みが私に生を自覚させ、また生に執着させる。
そんな常に血に濡れた手に手を伸ばしたのは彼だけだったのだ。

その剣を置きなさい。
暖かい声だと思った。
私にでも分かるほど上質な布で作られた衣服。
彼が高い身分であることは安易に予想出来た。
地上で売るのか。
彼の家で奴隷となるのか。
此処で殺されるのか。
ともかく早く逃げよ。
でもその目に捕われた様に動くことができない。

しかし彼はどれとも違った。

地下街の子供を自分の近くに置くなんて、彼は何を思っているのだろう。

でも彼の隣に居るほど彼ともっと過ごしたいと思う。
それはまるで幼い頃聞かされた、物語のよう。
私は彼と出会ってから声を失った。
だが彼と少しでも多くといられるなら私は他の全てを失っても構わない。

なんて。

だが私はやっぱりとても傲慢で、いつも今以上のことを望んでしまう。
これは恋の歌なんだよ、彼は告げた。
もし私がこんな美しさを持ち、彼と釣り合う程の身分があれば私は恋を歌えたでしょうか。

これは罰だ。
今まで犯した罪への。
そして彼の隣に居ることの対価だ。

少女は突然に声を失い、   を手に入れた。
だから後悔はしていない、きっと。
彼女は精一杯、微笑んだ。

▽FIN

お疲れさまでした
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