切ない寓話

　とても面白かった。

　この作者の他の作品について投稿したレビューでも触れた記憶があるが、
私は最近ますます小説を読み通すということができなくなっており、
この作者の作品群は数少ない例外。
しかし、
なぜ自分がそれらを面白く感じるのかは、
よく自己分析できていない。

　この作者の作品を「ワケ分かんねェ」と言う人がいることは容易に想像がつくが、
しかしちょっとググればこの作者のシンパが少なからず存在することはすぐ分かるし、
発売直後に首都圏の某大書店で週間売上ベストテンにランクインするくらいだから、
私のように「面白い」と感じる人間は別段孤立しているワケではなさそう(読んだ上で「あざとい」とか「インチキ臭い」とか貶す人もモチロンいて、
そういう評価も理解できないではない)。


　近年の著者は、
11年3月の東北の災害の後、
ちょっとした曲折を経て『恋する原発』を発表し、
小説以外の領域でも精力的と言っていい言論活動を展開してきたし、
さらに12年4月刊行で谷崎賞を受賞した『さよならクリストファー・ロビン』でも、
私の受け取り方では濃密に死の意識を漂わせていた。

　ところが本作は、
P564の但書によれば初出が「すばる」05年3月号から11年2月号の連載で、
「全面的に加筆・修整」したとのこと。
この作者について言えば雑誌連載から単行本化までに間が空くことも、
大幅な加筆・修整も前例のあることだが、
しかし今回の場合は、
やはり東北の災害の影響が推測される。
私自身は連載を全く読んでいないのだが、
この単行本は作者が『非常時のことば』で論じた川上弘美の「神様2011」のような位置づけになるのではないか？
　ただ災害直後と言っていい時期に反応した川上弘美と違って、
この作者の場合は間に上記のように『恋する〜』や『さよなら〜』所収の短編群、
他にも『日本文学盛衰史 戦後文学篇』の連載、
さまざまな批評と、
相当数の文章を書いており、
初出との異同を確認したわけではないので不用意な憶測と言われても仕方がないのだが、
改訂はかなりの深度に達しているのではないか。
『さよなら〜』といくつかのモチーフが共通している点など、
私としては機会があったら確認してみたい。