賢帝の世紀──ローマ人の物語[電子版]IX の感想

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参照データ

タイトル賢帝の世紀──ローマ人の物語[電子版]IX
発売日2014-11-21
製作者塩野 七生
販売元新潮社
JANコード登録されていません
カテゴリ歴史・地理 » 世界史 » ヨーロッパ史 » ヨーロッパ史一般

賢帝の世紀──ローマ人の物語[電子版]IX とは

年に1冊のペースで書き下ろしているこのシリーズ。今回はローマ時代の「五賢帝」のうちトライアヌス、ハドリアヌス、アントニウス・ピウスの3人を取り上げている。トライアヌスは、ローマ帝国初の属州出身の皇帝であり帝国の版図を拡大する。ハドリアヌスは、トライアヌスが拡大した帝国内をくまなく巡察し統治システムをたて直す。最後のアントニウス・ピウスは帝国内の政治を充実させ、治世者というよりも帝国の父親役を見事に演じきった皇帝である。
おもしろいことにこの巻は著者の意外な愚痴が導入となっている。前々作の『悪名高き皇帝たち』に列記されていた皇帝たちとちがって、「賢帝」たちに当時のローマ人自身が心底から満足していた。それゆえに同時代に生きた歴史家タキトゥスたちが書く動機を失い、史料を残していないことを著者は嘆いてみせる。とは言いながらも、当時のローマ人が「黄金の時代」と言った時代を生み出した皇帝たちの治世の手法、人格、思考などのさまざまな側面を、残された史料から見事に再構築している。
そのひとつにトライアヌスの皇后プロティナが若きハドリアヌスを「可愛がった」ことについて、多くの歴史研究者が実際の関係を探ろうとして失敗しているという記述がある。それに対して塩野七生は、10歳は年上の女性が年下の男に「弱くなる」条件を提示し、2人の間に肉体関係はなかったと断言する。このくだりの説得力と筆述はまさに本書の醍醐味である。そしてトライアヌスの章の最後で、その肖像への語りかけに著者の最大級の愛情を感じる。(鏑木隆一郎)

購入者の感想

 塩野氏の「ローマ人の物語」第9巻。後世では「五賢帝時代」と呼ばれ、また同時代のローマ人からも「黄金の世紀」と呼ばれた時代の皇帝、トライアヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウスの3人の治世を本書では描く。
 「属州出身初の皇帝」であるトライアヌスは、国内の公共施設の強化を行うと共に、帝国の領土を最大に広げた人物だ。著者が「げんなりする」ほどの規模と数量で、トライアヌスは帝国全域を巻き込んだ一大公共事業ラッシュを敢行する。またダキア制覇については、本書ではダキア戦役を「トライアヌス円柱」の各場面の解説を行うことにより、戦役の物語の概要が語られる。属州に赴任している総督を始め、様々な人からの報告書に1通1通返信して指示を出す等、皇帝としてとにかくモーレツに働いたトライアヌスに対し、著者はその大理石の像に「あなたはなぜ、ああもがんばったのですか」と、章の最後に語りかける場面が印象的だ。
 続く皇帝ハドリアヌスは、帝国全域の視察巡行を行った人物だ。その目的は帝国の防衛線をまわり、無用と判断したものは破棄し、必要なものは活かすことで整理をし、それらを成すことによって帝国の安全保障体制を再構築することであり、ハドリアヌスは真の意味でローマ帝国を「リストラ」した人だと著者は指摘する。ユダヤ問題を解決したのもハドリアヌスだ。ここでは、キリスト教徒とユダヤ教徒の確執の表面化や、20世紀のイスラエル建国まで続くユダヤ人の「ディアスポラ」をもたらすきっかけとなったユダヤ戦役の内容が興味深い。ユダヤの特異性(他社の神を一切認めない、神が許さないという理由で義務を果たさない、経済面の権利だけは平等を要求するなど)に対し、ハドリアヌスは、多様な人間社会もわきまえない傲慢であるとして嫌った。ギリシア・ローマ文明の子ならば当然の考え方だとする著者の主張に対し大いに同意しつつ、後の時代に受けるユダヤ民族の様々な困難を思うと、民族同士の対立に対し複雑な思いがよぎる。晩年のハドリアヌスは、体力の減退が著しかった。ハドリアヌスの変化の要因に対して著者は「やることはすべてやり終えた」という精神の張りのゆるみなのではと推測する。現代の、定年を迎えたサラリーマン像に重なる。

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