怒り(下) (中公文庫) の感想
参照データ
タイトル | 怒り(下) (中公文庫) |
発売日 | 2016-01-21 |
製作者 | 吉田 修一 |
販売元 | 中央公論新社 |
JANコード | 9784122062146 |
カテゴリ | 本 » ジャンル別 » 文学・評論 » ミステリー・サスペンス・ハードボイルド |
購入者の感想
後半に犯人像が明らかにされ、思いがけない結末が用意されています。犯人かと思われる人物達とその人物を取り巻く人間関係を描くことがとても巧く、犯人を捕らえ、犯罪を究明するのがミステリーだとすれば、本書は明らかにミステリーではなく、ミステリー形式をとった文学作品だと言えましょう。犯人が誰かよりも、犯人もしくは犯人と疑われる人物と親しく交わってきた人間達の動揺や、その人物が失踪したことによる喪失感が見事に描かれています。読者が犯人が誰かということよりも、周囲の人間達の苦しみや悩みの方に気が向いていくように書かれています。人間がどういう状況であれ、他者と関わり、かけがえのない人間関係を結ぶことの重みや大切さを読者に伝える小説です。めまぐるしい場面転換のために、ストーリーの流れをともすれば失いがちになりやすい書き方をとっていますが、本書は間違いなく傑作です。文学ファンにお薦めの一冊です。