エピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書) の感想

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タイトルエピジェネティクス――新しい生命像をえがく (岩波新書)
発売日販売日未定
製作者仲野 徹
販売元岩波書店
JANコード9784004314844
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購入者の感想

エピジェネティクスに興味を持ったのは、テレビ番組で北海道の大黒秋刀魚の話がやっていた際、
その背側への脂の乗り具合のよさは、この現象によるものとの解説があったことでした。
通常の遺伝因子の発現をうまく制御するもう一つの系として理解されますが、
その詳しいメカニズムとして、例えば本書で挙げているのは、
コア蛋白ヒストンH3付属第9番目特定アミノ酸K(リジン)のメチル化です。

本書によると、ヒストンとDNAの塩基シトシンが、各々(脱)アセチル化や(脱)メチル化したりするため、
最少都合4種類の場合が生じ、それをコードとみなすことも可能なように思えます。
酵素DNMTやTetによって、シトシン5位のメチル化やヒドロキシメチル化まで進むこともありえ、
類似のアザシチジンがあると、拮抗阻害によって、無特徴な線維芽細胞が骨格筋細胞にまで分化誘導されるともいい、
DNA複製の過程と併せると、受動的なシトシンのヘミメチル化によって分化が生じ、
その過程は薬剤により制御可能であるとのことです。
また、生殖細胞ができる前の脱メチル化は、とくに行われる能動的なものだそうで、
各親の形質の一部を意図的に伝えないものであるようにも見受けられます…。

概して、H1を除く4種類のヒストンが2つずつ会合しあってつくるヘテロ8量体にDNA二本鎖が巻き付いたものをヌクレオソーム、
その集合を染色糸、それが分裂時に太いひも状となって現れるものを染色体(クロモソーム)というそうで、
即ち、遺伝現象をヘミメチル化などをつうじて、パターン的に抑制したり、促進したりする営みを、
総じてエピジェネティクスといっているようです。
すると、兵庫の日本海側におけるホタルイカのルシフェリンによる発光調節などは、エピ現象とも関係するかもしれません。
イカですから、血液など体液にはヘモシアニンという、銅イオンをコアとする錯体も含まれているはずで、
そのメチル化と拮抗阻害などを考えると、弾みで酸素がルシフェリンに付いて発光に至る点も何となく理解されます。

 ありがたいことに、最近、エピジェネティクスの一般向け解説書がいくつか出てきた(たとえば本書とほぼ同時に『驚異のエピジェネティクス』が刊行されている)。しかし残念ながら、これからたっぷり論じるように、本書はあまり良い本ではない。少なくとも最初に読むものとしては、昨年の入門書『エピゲノムと生命』のほうをはるかにお勧めする。あるいは、エピジェネティスに関連する重要な話題――遺伝子決定論と環境決定論に対する科学的な裁定――を社会史的な視野から幅広く論じた好著として『やわらかな遺伝子』もある。

 というわけで、このレヴューは本書にきわめて批判的だが、エピジェネティクス自体は面白い分野であるという点を誤解してほしくはない。エピジェネティクスとは、私なりに纏めるなら、「遺伝に関与するメカニズムは DNA だけに限らないとして、その DNA 以外の遺伝メカニズムを主に研究しようとする遺伝学」のことである。実は、生命の遺伝メカニズムを知ろうと思ったら、DNA だけを見ていても分からない。言い換えれば、生命は DNA がすべてを決定しているのではない。DNA に含まれる遺伝情報のうち、どの情報を「表現型」として実現し、どの情報を抑制するのかを決定するメカニズムが、DNA

エピジェネティクスは生物の生き様を考察するうえで、たいへんに重要なホット・サブジェクトであると言えます。しかし、最近は、エピジェネティクスを<獲得形質の遺伝>の証拠と早合点する教員の見解が散見しますが、それは間違っています。そのことは第3章や終章(第6章に相当)に考察されていますので、ぜひ読み違いすることのないように注意して欲しいと思います。
 エピジェネティクスに関する一般書としては、太田邦史『エピゲノムと生命』(講談社ブルーバックス)が出ていますし、生態学や発生学との関連までを含めて扱ったものに、ギルバートらの『生態進化発生学』(東海大学出版会)がありますが、本書もたいへん有用な入門書になっています。ただ、高校生物の知識がないと生化学の分野を理解するのはハードルが高いと思われます。
 エピジェネシスは「後成説」と訳されます。受精卵が分裂して体の細胞を作っていくとき、発生後に細胞の形質が徐々に変化していくことです。現代ではそのような変化の基盤は遺伝子調節の変化にあると理解されています。エピジェネティクスは「エピジェネシス(後成説)」+「ジェネティクス(遺伝学)」ですから、無理やり訳すと「後成説遺伝学」となります。高校の遺伝学では、形質は遺伝子によって決定されると教えていますから、エピジェネシスと遺伝学を同時に真理として成り立たせようとすると、遺伝子は変化しないが遺伝子調節のプログラムは変化すると理解させることになります。ところで、これまで私たちは漠然と遺伝子調節のプログラム自体も遺伝的に決定されているものと思い込んでいました。最近のエピジェネティクス研究が目を開かせてくれたことは、<遺伝子調節もリプログラミングされる>ということだったのです。特に母親の栄養状態が卵細胞に影響を与える例が重要です。このように把握すると見通しが良くなります。
 第2章「エピジェネティクスの分子基盤」では<エピジェネティクス制御はDNAのメチル化とヒストン修飾による遺伝子発現制御である>と説明されます。第3章「さまざまな生命現象とエピジェネティクス」には、動物と異なり、生殖細胞の分化が遅い植物では体細胞に生じたDNAメチル化が子孫へ遺伝しても不思議ではないとの重要な指摘があります。
 この分野を概観するのに良い好著だと思います。0

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