ツタンカーメン - 「悲劇の少年王」の知られざる実像 (中公新書) の感想

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参照データ

タイトルツタンカーメン - 「悲劇の少年王」の知られざる実像 (中公新書)
発売日販売日未定
製作者大城 道則
販売元中央公論新社
JANコード9784121022356
カテゴリ歴史・地理 » 世界史 » 古代史 » 古代エジプト史

購入者の感想

「はじめに」には、この本のスタンスが述べられている。

「…本書では、現時点においてツタンカーメンについて、いったい何がわかっているのか、あるいは何がわかりつつあるのかを紹介・解説するという形式を取りながら、彼の生きた古代エジプト世界とはいかなるものであったのかをさまざまな角度から一片一片、パズルのピースを拾うかのごとく明らかにしてみたい」(’C頁)

今までのツタンカーメン関連本のようにツタンカーメン王墓の「発掘」それ自体ではなく、現在の研究状況や王墓から出土した遺物を取り上げ、テーマ別に掘り下げているのがこの本の特徴である。そしてその焦点が、「ツタンカーメンの死」に合わせられているのもおもしろい。以下が本書の構成となっている。

序章 ツタンカーメンとは誰か?
第一章 若き王の生涯
第二章 ツタンカーメンの死の謎
第三章 女性たちのすさまじき権力闘争
第四章 王の副葬品
第五章 後継者をめぐって
第六章 ツタンカーメンの死の真相とは?

特に第五章では、ツタンカーメン王墓から出土した遺物を考古学、歴史学的手法だけではなく、文化人類学、民俗学的手法を用いながら解釈していく。ツタンカーメンといえば黄金のマスクにばかり注目が集まるが、それ以外の遺物も古代エジプト文明の世界を知るための、また「ツタンカーメンの死の真相」を知るための重要なピースになっていることに気づかされた。本章がこの本の白眉だといえる。

 古代エジプトの王たちのなかでも、その墓から誰もが知っている黄金のマスクをはじめとする貴重なものがいくつも出土したツタンカーメンは、最も有名な王の1人でしょう。彼のミイラが発見されているのもよく知られていますが、若くして亡くなったと判明しています。ただし、史料の限界から、なぜ彼が早世してしまったのか、そしてその死の前後に何が起きたのかについて、はっきりとは分からないようです。本書はツタンカーメンだけではなく、太陽信仰を極端に重視した父親であるアクエンアテンからの流れ、王家をめぐる女性たちや王家に関わる臣下たちの事情から、包み込むようにツタンカーメンをめぐる謎に切り込んでいきます。なお、本書の前提となる知識として、ツタンカーメンの生きた新王国期のエジプト史の概観も最初にまとめられています。なので、エジプト史に馴染みのない読者でも理解は難しくありません。
 本書で提示されたツタンカーメンの死を巡る仮説に対して、今後のさらなる発掘調査や研究の進展によって、より説得力のある説が提示されるかもしれません。しかし、後書きを読むと、本書を読んだ読者の中から、古代エジプト研究の道へ進んで新たな解釈を提示する方が現れるのを、むしろ待ち望んでいるように見受けられます。それによって、ツタンカーメンと古代エジプト史の研究が日本でますます盛んになり、興味を持つ一般読者が増えて古代エジプト史への関心がさらに高まることこそ、著者の望みであるように感じました。
 そうした意識は、ツタンカーメンの副葬品について述べた第5章からもうかがえます。単に副葬品の美術的価値やエジプト史における意味を説明するだけではなく、メソポタミアやギリシアとのつながりも語っています。サンダルや手鏡といった何気ない小さな副葬品からも、地中海の他の文明との結びつきという古代史のスケールの大きさを提示しようとしています。あえて大胆かもしれない記述を行ったのは、ごく普通の読者に、少しでも古代史の面白さを感じてもらいたいという心意気の表れかと思います。
 本書は、古代エジプト史の裾野を広げたいという著者の思いに十分に答えうる、学術的でありつつも分かりやすくて間口が広い1冊となっているのではないでしょうか。

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