算数でわかる天文学 の感想

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参照データ

タイトル算数でわかる天文学
発売日販売日未定
製作者ダニエル・フライシュ
販売元岩波書店
JANコード9784000054140
カテゴリジャンル別 » 科学・テクノロジー » 宇宙学・天文学 » 理論天文学

購入者の感想

まず、日本語訳の題名からして戴けない。原題は「学生のための、天文学の数学へのガイド」であり、序文からも分かるように、天文学そのものを解説しようとした書物ではない。早い話、大学で「天文学」を選択したが、出て来た簡単な数式にてこずっている(文科系の)学生のために、それらの数式をきっちり理解することを通して天文学そのものをよく理解してもらおう、というのがこの本の趣旨である。しかも、この本では文字式や根号の理解は前提となっているのであって、それだけでも「算数」の範囲は超えていると思われる。
しかし、最大の問題は翻訳である。はっきり言って、初めから終わりまで誤訳だらけである。教育経験に基づいていると思われる、原著の繊細な説明を訳者が受け止め切れていないということは残念なことではあるが、この際、それは措いてもよい。原著と意味のずれはあっても、一応辻褄があっていて科学的にも間違いがない訳文でさえあれば何も言うまい。しかし、そうはいかないのである。
たとえば、2.3節の冒頭は
「ニュートンの運動の法則を用いれば、惑星軌道に対するケプラーの法則の基本的な概念は数学をほとんど使わずに理解できます」
となっている。ところが、原著が言っているのは、「ニュートンの運動の法則と同じように」、ケプラーの法則の文面は数学をほとんど使わずに理解できる、ということなのである。たとえば、ニュートンの運動の第二法則はF=maという簡単な式であって、(表面上は)数学はほとんどいらない、それと同じ意味で、ケプラーの法則の文面そのものを理解するのに数学はほとんどいらないのだ、というようなことなのである。また、たとえば4.1.1節に
「この簡単な実験結果から、視差が腕の長さと両目の間の距離に依存することがわかるはずです」

天文学や宇宙論に興味があっても、高度な数学の予備知識が必要な専門書は、一般の読者には敷居が高すぎ、一方、「お話」だけの一般書は物足りない、そのような天文学・宇宙論好きには、「挫折」の心配をせず、最後まで安心して読める本である。必要な数学は、「算数」だけとはいかないが、高校数学の基本程度である。紙と電卓を片手に本書を読み進めれば、これまであやふやだった天文学の基本が自分のモノになった気がする。

本書の二人の著者はアメリカの大学で天文学の入門コースを教えていて、学生がぶつかる疑問や、計算過程で陥る落し穴を熟知している。そのような経験を踏まえて書かれた本だけに、丁寧すぎるほど、基本概念をわかりやすく説明し、また例題の計算過程は、途中を一切省略せずに説明している。評者も天文学の本は何冊も読んでいるが、「単位の変換時の注意事項」や「絶対法と比率法」などに関して、本書程分かりやすい説明は見たことがない。

内容は、まず単位や科学的表記法について懇切に説明した後、重力、光、天体観測、星、およびブラックホールと宇宙論について、いくつもの例題を中心に話を進めている。解説図も分かりやすく、最後まで、手を動かしながら、また楽しみながら読める。「専門家」であれば当然のこととして書き流してしまう事項一つ一つについて、このように懇切に書かれた本はあまり経験がない。訳文および訳注も極めて適切である。

本書と類似のコンセプトの本、福江純著『完全独習 現代の宇宙論-宇宙と天体の起源』(講談社)もお奨めである。

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