開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済 (日本の〈現代〉07) の感想

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タイトル開発主義の暴走と保身 金融システムと平成経済 (日本の〈現代〉07)
発売日販売日未定
製作者池尾 和人
販売元NTT出版
JANコード9784757140981
カテゴリ経済学・経済事情 » 各国経済事情 » 日本 » 一般

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 「開発主義」とは、「産業化の促進を目的として政府が市場に対して介入するような政策レジーム(P15)」のことである。行政指導的にどんどん政府が介入して経済を動かす。
 金融取引の様式には相対型(銀行中心、間接金融主体)と市場型(資本市場主体、直接金融主体)の2種に大別されるとあり、開発主義と親和性がいいのは前者である。戦後の日本は、人為的低金利政策により銀行の調達金利を抑制し、これによって銀行にレント(超過利潤)をたっぷり与えた。そのかわり、大蔵省は銀行の行動に大きく影響を与える。投資機会が豊富でカネ不足の途上段階ではこれでよかったのだが、投資機会の乏しいカネ余りの成熟段階では、この開発主義システムは機能しない、というか有害であると説く。
 レントを与える代わりに銀行も天下りを積極的に受け入れることになり、金融当局と銀行が癒着し、規律が働かなくなる。一方、投資機会の減少により事業会社の資金需要が減退し、銀行の事業会社に対する影響力も徐々に低下していく。こういう社会状況で開発主義が行き詰まりつつあるとき、改革できないままバブルが発生して崩壊。このとき公的資金注入等による積極関与ではなく自己責任政策的な金融行政であったため、銀行は追い貸しによって取引先を救済しようとするが、この問題先送り的な行動により生産性の低下した企業が生き延びさせられ、結果として90年代には経済全体としての資源配分が大きく非効率化したという。不良債権も拡大し、バブルの後遺症を深刻化した。日本の民間企業部門は過剰債務を抱えたが、2000年代になってやっと債務の解消を実現しつつある。ただし、債務が消えたのではなく政府の財政支出による救済であり、債務は政府部門に付け替えられたにすぎない。これが国の大借金の正体であり、現在の「高福祉・低負担」は維持できないので歳出削減と増税をやらざるを得ない、という意見である。
 橋本内閣のときに(必要最低ラインにしかすぎなかったとはいえ)金融ビックバンができたのは、大蔵省本流の財務部局が金融部局の失態により大蔵省全体の評判が失墜したことを苦々しく思っていたため、財務部局がイニシアチブを取ったことも寄与したそうである。

明治以降、寺西重郎氏のいうところの「明治大正経済システム」が1900年ごろ成立する。1925年ごろそのシステムは不安定化し、1955年ごろ「高度成長期経済システム」が成立する。寺西氏はそれが1980年ごろまで続いたとしているが、池尾氏は1990年代半ばだとしています。

本書では、人為的低金利政策(ないしは護送船団方式)を組み込み、開発主義のエンジンとしての役割を果たしてきた戦後日本の金融システムの姿を「開発主義金融」と命名し、その破綻を論じています。そして、銀行中心の金融システム(日本、大陸欧州)と資本市場に基礎を置く金融システム(米英)に分かれており、金融ビッグバン以降、「市場型間接金融」の拡大が当面の課題としています。金融ビッグバンの当事者である池尾氏によるバブル崩壊後の金融史。読み応えがあります。

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