これまでのあらすじ
『私の声が届くまで』
この物語は 恋愛 です
歌を歌うことがある。
声を失った、今でも。
他人にはどう聞こえていたのだろう。
ちょっと低くて、通りが悪くて。
私には、そう聞こえていた。
挑むような気持ちで、12月の冷たい風の吹く堤防に座っていた。
少し前に流行った歌だった。
今は誰も歌わない。
どんなに力を込めても、空気がもれるような音しかしない。
自分の声がどんなだったか、もう思い出せない。
だから、そのアイドルの声を心のなかで作って歌っていた。
声なんて、要らない。
伝えたいこともない。
伝える言葉も、伝えたい思いも、ない。
だから私は、ひとりぼっちで、声のない歌を歌う。
声をなくしても、そんなに不自由はない。
声をなくす代わりに何かひとつ、才能が欲しかったと思うくらいだ。
一曲、終わった。
次は何を歌おう。
今日もそうして、いじけたような気持ちと人恋しさの混ざった心をごまかしている。
寒風が、今日は一段と冷たい。
もうすぐクリスマスだ。
テレビもラジオも。だれも、かれも。
誰と過ごすかなんて、どうでもいいじゃない。
一人カラオケ、今日はもういいや。
立ち上がって、お尻の砂をはたいた。
ふと、気配がした。
自分と同い年くらいの男の子。
まんまるな目で、私を見ていた。
ねえ、なにを言ってたの。
男の子は言った。
この人には、私が何かぶつぶつ言ってたようにみえたのかな。
だめ。わたし、声、出ない。
身振りで教えた。
慣れていた。私がこうやると、みんな申し訳なさそうな顔をする。
意外なことに、男の子は笑った。
そして、言った。
声を失った、今でも。
他人にはどう聞こえていたのだろう。
ちょっと低くて、通りが悪くて。
私には、そう聞こえていた。
挑むような気持ちで、12月の冷たい風の吹く堤防に座っていた。
少し前に流行った歌だった。
今は誰も歌わない。
どんなに力を込めても、空気がもれるような音しかしない。
自分の声がどんなだったか、もう思い出せない。
だから、そのアイドルの声を心のなかで作って歌っていた。
声なんて、要らない。
伝えたいこともない。
伝える言葉も、伝えたい思いも、ない。
だから私は、ひとりぼっちで、声のない歌を歌う。
声をなくしても、そんなに不自由はない。
声をなくす代わりに何かひとつ、才能が欲しかったと思うくらいだ。
一曲、終わった。
次は何を歌おう。
今日もそうして、いじけたような気持ちと人恋しさの混ざった心をごまかしている。
寒風が、今日は一段と冷たい。
もうすぐクリスマスだ。
テレビもラジオも。だれも、かれも。
誰と過ごすかなんて、どうでもいいじゃない。
一人カラオケ、今日はもういいや。
立ち上がって、お尻の砂をはたいた。
ふと、気配がした。
自分と同い年くらいの男の子。
まんまるな目で、私を見ていた。
ねえ、なにを言ってたの。
男の子は言った。
この人には、私が何かぶつぶつ言ってたようにみえたのかな。
だめ。わたし、声、出ない。
身振りで教えた。
慣れていた。私がこうやると、みんな申し訳なさそうな顔をする。
意外なことに、男の子は笑った。
そして、言った。
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筆者:墨染織 読者:423 評価:0 分岐:1