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『私の声が届くまで』
この物語は 恋愛 です
1章.私の声が届くまで読者597 評価2 分岐2
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さし
14.10.05
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歌を歌うことがある。
声を失った、今でも。
他人にはどう聞こえていたのだろう。
ちょっと低くて、通りが悪くて。
私には、そう聞こえていた。
挑むような気持ちで、12月の冷たい風の吹く堤防に座っていた。
少し前に流行った歌だった。
今は誰も歌わない。
どんなに力を込めても、空気がもれるような音しかしない。
自分の声がどんなだったか、もう思い出せない。
だから、そのアイドルの声を心のなかで作って歌っていた。
声なんて、要らない。
伝えたいこともない。
伝える言葉も、伝えたい思いも、ない。
だから私は、ひとりぼっちで、声のない歌を歌う。
声をなくしても、そんなに不自由はない。
声をなくす代わりに何かひとつ、才能が欲しかったと思うくらいだ。
一曲、終わった。
次は何を歌おう。
今日もそうして、いじけたような気持ちと人恋しさの混ざった心をごまかしている。
寒風が、今日は一段と冷たい。
もうすぐクリスマスだ。
テレビもラジオも。だれも、かれも。
誰と過ごすかなんて、どうでもいいじゃない。
一人カラオケ、今日はもういいや。
立ち上がって、お尻の砂をはたいた。
ふと、気配がした。
自分と同い年くらいの男の子。
まんまるな目で、私を見ていた。

ねえ、なにを言ってたの。

男の子は言った。

この人には、私が何かぶつぶつ言ってたようにみえたのかな。

だめ。わたし、声、出ない。
身振りで教えた。

慣れていた。私がこうやると、みんな申し訳なさそうな顔をする。
意外なことに、男の子は笑った。
そして、言った。










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筆者:墨染織  読者:423  評価:0  分岐:1

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