ある珈琲店を巡る追憶

青山通りの喧騒を全く感じさせない静かな時間が流れていた珈琲店。
(決してカフェでは無く)
ほの暗い照明と木の温もりの落ち着いた調度。

決して珈琲通でなくとも敷居の高くない空間。

壁に並べられたハヤカワ・ポケット・ミステリも渋く見事に店に馴染んでいた。
(本書を読んで初めて、
あの蔵書の来歴を知った)
本書は閉店を惜しんで作られた私家版を再編集し、
珈琲や店への思い入れや亡き向田邦子氏など客との思い出を綴った店主のエッセイ、
在りし日の店内の様子を伝える美しい写真、
糸井重里氏、
小澤征爾氏など縁の人々の寄稿で構成された一冊。

本書自体が殺伐とした日常の中でささくれだった心に潤いを与えてくれる美味な珈琲のようなおだやかで贅沢な本。

(しかし閉店の理由がお定まりの再開発の為とは国のレベルを推して知るべし)