「美術について言葉で書くのはテロリズムだ」というテロリズム

「芸術は感性的なものなので言葉で書くのはナンセンスだ」
という感覚はだれもどこかで持つものかもしれないが、
実はそれこそナンセンスだ。
なぜなら「芸術は言葉ではない」という言明も、
言葉で語られた芸術論だからだ。

「美術について書くのはテロだ」などというのは、
美術という文化にツバを吐きかけるような行為でしかない。
そのような粗暴な議論は、
この本の第一章でもたしなめられている。


山に登ったことのない人が山に登りに行く前にすることは、
まず登山について調べることのはずだ。

この本はそういったガイドブックだ。
しかも、
とても充実していて内容のバランスも取れている。


この本は美術批評に関する本なのだが、
内容には普遍的な汎用性がある。

何かを見て、
それを理解し、
自分の見解を持ち、
それを言語化し、
他者と交換しあい、
共に知見を深めて視野を広げる。
この本に書かれているのは、
まさにその方法だからだ。
（そう、
日本人が一般的にとても苦手とする分野だ。
）

借り物の言葉ではない自分の言葉で歩き始めたい人には、
最良のガイドブックのひとつだろう。