壮絶!
いよいよかつてない大決戦の戦闘の火蓋が切って落とされた。
何しろ大国秦に対して、
他の5カ国が連合する「合従」軍との戦いなのだ。
期待にたがわぬすばらしい巻である。
正直な話、
何しろここまでの巻の、
いわば決戦前夜の緊迫感がすごかっただけに、
かえって心配がないでもなかった。
こんなに盛り上げてしまって、
いざという戦いはちゃんと描けるのかと。
嵐の前のヒリヒリ感に対して、
肝心の本番が尻すぼみになってはしまわないかと。
だがすべて杞憂であった。
最初の圧倒的不利の場面で、
いきなり信がむちゃくちゃかっこいい活躍を見せるが、
決してそれだけではない。
そうそうたる英雄豪傑たちの、
智略と武勇の凄まじいぶつかり合いが続く。
たとえば、
これは終わり近くだが、
大将軍王騎の副将だった騰。
今回の表紙を飾る彼の顔は、
ガリバーか何かの西洋人形のようだが、
本当はこれがまた実に渋い。
そうしたどちらかといえばコミカルな外見が、
ここ一番でド迫力の変身を見せるギャップ。
これが面白くもあり、
効果的でもある。
盛り上がるのである。
騰の活躍によって、
今は亡き王騎の偉大さが蘇るのもいい。
えてして英雄伝説というのは、
限られた英雄の輝きを強調するあまり、
あとの人間はいかにも雑魚に描いてしまいがちだと思う。
英雄の前にひれ伏す100人、
1000人、
ということで、
要するに数でしか語られないことも多いだろう。
だが作者の原さんのすごいところは、
きっちり一人ひとりのがんばりやすごさを描けるところだ。
能力の格はいろいろ違っても、
それぞれのレベルで優れた人間はたくさんいるだろう。
そのすごい奴らよりさらに上を行くから、
英雄は本当にすごいのだ。
その辺がきっちり書き分けられているのがいい。
手に汗握る場面の連続で興奮のうちに読み終わってしまったが、
これでまだ大決戦のほんの緒戦、
初日にすぎないではないか。
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