『セブン』における犯行の哲学・宗教性を、芸術にシフトさせた挙句の混迷した力作？

　原作は、
巴亮介が『週刊ヤングマガジン』に連載していた漫画。

　中途打切りが珍しくない世界で、
担当編集者とすったもんだしながら創られる物語がベースだから、
あまり退屈はさせないけど、
内容は猟奇的な連続殺人を扱った傑作『セブン』、
決まって雨の日に犯行が行われる『殺人の追憶』、
ゲーム感覚の『ソウ』シリーズをヒントにし、
前二作に遠く及ばず、
とりとめがなくなった『ソウ』シリーズの終盤作とはどっこいどっこいといったニュアンス。

　何かに強く惹かれたり憧れたりして、
それに近いものを創ろうとする気持ちは決して悪くはなく、
今後に期待したい。


　小栗旬は研究熱心で真摯な俳優だが、
今回の作品については何もかもオーヴァー。

　妻夫木聡と尾野真千子も小栗に負けずと熱演するので、
特に後半は空回りするお祭り騒ぎみたい。

　『セブン』は熱くなるブラピに対し冷静なモーガン・フリーマン、
独得の哲学・宗教観を持ったケヴィン・スペイシー、
孤独と哀しみを湛えたグウィネス・パルトローがいたから危うい均衡が保たれた作品だったのに、
これじゃ鼻白むばかり。

　頑張っていることは伝わって来るが、
演出がもっと抑制するべき。

　原作は飽くまでも原作なのだし、
逸脱気味の変更も行っているのだから、
せっかくいい味出している松重豊の出番をもっと増やして、
鎮静効果をもたらせる方法もあったのでは？
　尾野がこの役柄を明確に理解しているかどうか以前に、
脚本段階におけるキャラクター設定自体にこれでよかったのかという疑問があり、
飽きるほど取り上げられてきた家庭を省みない刑事となおざりにされる妻や子という関係を描く時は、
当たり前のことだけど、
もっともっと神経を使って緻密に行わないと百害あって一利無し、
テレビの安っぽいサスペンス・ドラマの陳腐な様式美に堕するばかりで、
観る側はうんざりしてしまうのだよなあ。