心の傷に優しさを

人間誰しも、
大なり小なり心に傷を負っている。
誰かに傷つけられることもあれば、
誰かを傷つけることで自分が傷つくこともある。
その傷は他人には決して見えないし、
本人にだって解らないこともある。
どこにあるのか、
いつできたのか、
原因はなんなのか、
考えてみても不確かなファクターのほうが多かったりする。
そのくせ半永久的に再発する恐れがあり、
明確な治療法もなければ、
傷跡も簡単には消えてくれない。
厄介なものだ。


「空が灰色だから」を読んでいると、
そんな古傷がひどく疼くときがある。
ぶっ飛んだ話を笑いながら読んでいたかと思えば、
急に涙が溢れてきたり、
稀に吐き気が込み上げてくることもある。
しかし、
それでも目を背けたくはならない。

それはたぶん、
痛みを感じながらも、
優しい気持ちにもなるからだ。
痛む心を忘れていなかったことに、
かつての傷が今も自分の一部であり続けていることに、
なんだか少し安心するのだ。

心に出来た傷は、
厄介なものであると同時に、
その人にとって掛け替えの無いものなんだと思う。
ただ痛いから泣くわけじゃない。

　　

本作品の登場人物たちも、
大なり小なり心に傷を負っている。
最終話「歩み」でも、
友人を傷つけ、
自らも傷つく瞬間が、
残酷なまでにストレートに描かれ、
本作の幕を下ろしている。
彼女たちにとっても、
あの経験はきっと、
一生消えない傷になるだろう。

そして、
その傷を忘れてはならないと、
痛みとともに知ったその惨めな優しさを忘れてはならないと、
この漫画は静かに訴えかけてくるのだ。


自分にとっては処方箋のような、
戒めのような、
あるいは傷そのもののような漫画。

一生、
大切に読み続けると思う。