熱狂的な愛を形作る要素は，胸を錐でえぐるような痛みである

　「赤い高粱」は，「私」の祖父が祖母を驢馬の背からひきおろして高粱畑の中へ抱いていき大蓑の上に横たえたことから始まった，私の家族一族についての物語です。

　前半部分では，祖父と祖母のなり染めから，その後の酒造りに成功，そして祖母が日本兵の銃弾により倒れるまでの物語を２章に分けて語ったものでした。

　この「続赤い高粱」では，その後の壮大な祖母の葬儀の物語と，再び時代がさかのぼり，祖父には愛人がいたことが明らかにされ，愛憎交えた一族の関係が描かれます。

　「愛とは何か」ということについて莫言は次のように表現しています。


「熱狂的な愛を形作る要素は，胸を錐でえぐるような痛みである。
突き刺された心臓はたらたらと松脂のような液をしたたらせ，愛の痛みの代価である鮮血は胃から出て小腸，大腸をとおり，セメントのような大便となって体外へ排泄される」

　このように「愛」を内臓や大便に喩えるところなどは莫言ならではでしょう。
　　
　また，莫言の作品は，この作品に限らず，時間軸が何度も繰り返され，物語が深化していくという特徴があり，本作ではその特徴が顕著です。
何度も時代が行ったり来たりするので，多少とまどうこともあるかもしれません。

　莫言の作品のもう一つの特徴は，作品にどこかコミカルな感じが含まれるというところでしょうか。

　「続」では前半部分よりも更にコミカルな場面がいくつか描かれています。

　特に「犬の道」で描かれる野良犬軍団と少年たちとの対決シーンが凄まじいながらも犬目線での表現などもあり，とても可笑しいです。

　時代背景は，日本兵の残虐な行為なども描かれる抗日戦争が舞台ですが，それでもどこかコミカルさを残す本作品では，声だかに日本を非難するものではなく，人間誰しも一歩何かを超えてしまうと誰でも残虐になってしまうのだということだと思います。
その証拠に日本兵との戦い以上に中国人どおしの争い（共産党系ゲリラ対国民党系ゲリラの争い）が描かれています。