短編の名手、ここにあり!!
学生時代にこの作家の短編を1編読んだはずだが記憶には残っていない。
ただ、
同時期に公開された『フールズ・オブ・フォーチュン』という映画は同作家の長編がもとになっており、
この映画を映画館に見に行き、
それなりに泣けたことは覚えていた。
ただそのときは「お涙ちょうだいもの」という通俗的な印象しか持てなかったので、
それ以降はまったくノーマークのまま10数年が経過した。


ところが最近、
宮脇孝雄という翻訳家がこの作家を絶賛しているのを読み、
先入観を払拭すべく1冊読んでみようと思い立った。
購入の際には、
この作家の近刊の短編集(2千円以下)にするか、
この大部の短編集(3500円)にするか迷ったが、
清水の舞台から飛び降りるつもりで本書を注文することにした。
それは正しい選択だった。
しかも大正解!まだ全部読み終わっていないが、
何しろ1200ページ以上、
90編近くの短編が収められており、
とても一気に読むことなどできない。
寝る前に1編ずつ、
ちびちび読んでいる。


本書には、
60年代後半から90年代までに出版されたトレヴァーの7冊の短編集がまるごと入っているようだ。
この作家をまとめて読みたいという読者がいるということだろう。
ちょっと普通の作家ではありえないことだと思う。
こんなすごい作家だとはまったく知らなかった。


話の内容は大事件が起こるわけでもなく一見地味だが、
登場人物の描き方が巧みだ。
離婚した妻が忘れられずに酒に溺れ気味の中年男やら、
年甲斐もなくナンパに勤しむ退役老軍人やら、
ひとくせもふたくせもありそうな人物ばかりが登場する。
1編たりとも同じような設定がないのでまったく飽きがこない。
そこがこの作家の最大の魅力だと思う。
こういうのを読むと、
今まで読んだ小説の人物設定や描写が平ぺったいものに感じられてしまう。


また、
読み手の英語力にもよると思うが、
1回読んで状況を理解するのが難しいものもあり、
辛抱強く読み込むことによって、
登場人物たちの関係や彼らがおかれている状況がジワーッと明らかになってくる。
そんなとき決して易しくはない英文を解釈し得たという喜びもあわせて感じることができる。
辞書で言葉を1つひとつ調べながら精読していく作業は骨が折れるがrewardingである。
William Trevor Collected Stories Two Volumes Boxed Set

その他の感想

これで私も後継者?
商品としては良いのですが・・・。
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