奇を衒わぬ知情バランスの取れた実直な表現

ブラームスのピアノトリオはスターントリオと言っていいかＩ．スターン、
イストミン、
ローズによる豪快な演奏をＬＰで持っている。
永らくこれで聴いてきた。

他に食指が動きにくいほど優れた演奏であったので、
浮気心は全く起きなかった。


しかしＣＤに慣れてしまうと人間横着なもので、
ＬＰを取り出す手間が面倒になってしまい、
聴く機会は年に一度あるかないかになってしまった。
すると、
曲まで忘れかけるのだ。
気軽に取り出せる１枚が有ってもいいとＣＤを探した。


見ると、
買って失敗がなさそうなトリオとなると、
常設ではない演奏は名士の名が挙がっていても、
それが個性豊かな奏者であれば直の事安心できない。
まして知らない名前ならば宝くじを曳くようなものである。
（失敗はけっこうある）

スークトリオならば良く知るトリオであり、
外れがない事は明らかだが、
ブラームスには少し大人しく線が細いのでは・・・・との危惧があった。

決め手はスプラフォン盤のblue-specであった。


概してブラームスのピアノを伴う室内楽はＰ五重奏曲をはじめ、
Ｐ四重奏曲３曲も私の大好きなものである。
形は古典的形式を踏襲したやや堅苦しい姿になってはいるが、
中身は完全にロマンのエモーションで満たされている。

聴いてみて先の予測は杞憂であった。


予想に反してパネンカのピアノは力感も十分、
そして抑えるべきところは心得たもので、
十分ブラームスの内面を汲み取ってのこのトリオの基盤を支えている。

３人のアプローチは完全に一致している常設トリオだけに、
意表をつくような表現は無いから、
名人芸を期待する向きには薦められないが、
ブラームスの音楽とはもともとそうした効果狙いの作品ではないと言えよう。


スケルツォなどの特徴あるリズミックな曲想は、
一度耳にすると忘れられない印象を残すし、
沈潜した緩徐楽章の静謐さはいかにもブラームスらしい。

うれしいのはホルン３重奏曲が付いていること。

何でも自然ホルンの指定があるようで、
速く難しそうなフレーズを滑らかにふくよかに歌う音の美しいこと！これは予想外の満足が得られた。