素晴らしい実験デザインと研究哲学

本書の中盤あたり（3章あたり）から一気に勢いづいて，いかにして化石生物の機能を明らかにしていったのか明確になります．
自分で様々な苦労や工夫をし，流体実験や流体解析を行う独創性は著者ならではで，ちょっと他人にはマネのできない素晴らしいオリジナルの実験デザインを組みます．
理詰めで実験をしたことにより，論理の破綻も少ないので，他人からの批判にも十分耐えうる自信が文章の端々から滲み出ています．
素晴らしい独創性を生み出す著者の能力には感嘆せざるを得ません．
従って，そのあたりから話にどんどん引き込まれ，一気読みしてしまいました．文句なく面白い！！

また，文章がユーモラスで，クスッと笑ってしまった箇所もたくさんありました．
前半部は自虐的なのに対し，後半部では逆に自信に満ち溢れた，著者ならではの研究哲学が熱く語られていて，私自身は諸手を挙げて賛成できない箇所もありますが，金言もたくさん含まれています．
研究に行き詰っている一匹狼的な研究者にお薦めの本だと思いました．

注1）1章の堆積史の解釈は明らかに無理があります．恐らく，堆積学者が100人いたら100人ともが疑問を投げかけるでしょう．長くなるので詳しくは書けませんが，まず堆積相解析が明らかに間違っています．これは，著者が言うように「教科書とは異なるから」という理由ではなく，海水のレオロジーを考えた時に，絶対にあり得ない堆積相が混合しているということです．偉そうで申し訳ないのですが，私から見れば堆積史はもっと単純で，海水準の変動だけで説明可能だと思いました．なので，Island Arcといった著名な国際誌の査読に通ったのが不思議でなりません．

注2）カウンタック・ランボルギーニから着想を得たと得意げに自慢していますが，要はベルヌーイの法則を知っただけのことで，敢えてカウンタックを持ち出す必要もないと思いました．ベルヌーイの法則なら，私は中学生の頃から知っている当たり前のことです．

ただし，上に挙げた注1）と注2）は，この本の質を貶めるものではなく，この本全体の面白さから言ったら非常に些細なことです．
ちょっと気になったもので書いたまでです．