痛快エンタテイメントである

「雲霧仁左衛門」は純然たるエンタテイメントである。

小難しいことはなにもない。
著者の筆に従って、

ただただ楽しめば良い。
そういう小説である。

　
その楽しむべき点はどこかというと、
前半は盗賊側から「盗み」という犯罪の計画と遂行、
特にその準備に払われている労力、
尽力、
時間の膨大さが細かく描写されている。

この、
計画とその遂行にいたる過程が非常に面白い。

そして後半になると、
一転して探索方ががぜん活躍しはじめ、
前半とは逆の比重になるという、
ある意味倒叙ミステリともいえるものになっているところが興味深い。

著者の力はこの後半の探索方の描写に最も注がれているようであり、
さすがは「鬼平」の著者であると思わせるものである。

　
前半で「雲霧一味」に感情移入した読者は、
後半の探索方の活躍には、
まさに手に汗をにぎる思いがするだろう。

著者の面目躍如といったところである。

　
実在の人物ということでボス以下「雲霧一味」の描写が少々格好良すぎる気もするが、
その点を抜きにしても、
理屈抜きに楽しめる上質のエンタテイメントである。

　
また、
併録の「忍びの女」も甲賀女忍者の活躍が無条件に楽しめる作品である。

戦国時代に生きた忍者は、
今でいうスパイの位置づけであろう。

しかし、
妙な術を使うわけではなく、
常人以上の能力をそなえた忍者の活躍は、
「雲霧仁左衛門」とはまた違った趣向のエンタテイメントであり、
こちらもよけいな理屈抜きに楽しめる作品である。