知らずにすませられなかったもの
堀田善衛の「時間」及び著者の父(南京にて従軍の経歴がある)の記憶、
書き残したものを導きに、
1937年の南京大虐殺について、
評論とも私小説とも知れない手法で述べられている。

著者は、
堀田善衛や武田泰淳等の表現を借りて情景を描き、
そこに父親を立たせて、
自分と虐殺された人々との関係に架橋する作業を重ねていく。

その息の詰まるような作業は、
見ていないものを語る著者の試みを、
妄想とは笑わせない、
異様なリアリティを与えている。

著者自身が父の戦争体験を問わず、
父も語らずに逝ったこと、
戦後の多くの人たちが知らずにすませようとしたもの、
著者たちが知らずにすませられなかったものが語られ、
本来、
大問題として何よりも優先して考えられるべき事柄が、
なぜか問われなかった戦後70年の黙契が検証される。

終章にて安保法制の採決がされた現代の惨状へと、
繋がる。

あとがきのくだりは、
父を詰問し続けた本書の終りに、
著者が父を決して免罪しない一方で、
父と子がそれぞれ持つ恥の記憶にかすかな希望を匂わせる、
不思議な温かさを感じた。
誤読だろうか。
1★9★3★7(イクミナ)

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