禅のエッセンス

禅の歴史と要点を、
この研究分野の碩学の一人が「ざっくり」まとめた本。
道元や鈴木大拙だけでなく中国からの禅の展開をわかりやすく説明してくれる本は、
あまり見当たらない印象で、
本書はそういう意味で貴重な一冊といえよう。
「北宗」「南宗」の初期の禅宗からはじまって、
唐代、
宋代、
近代日本（大拙）と、
特に重要な時期を取り上げ、
原典からの抜粋に基づきかなり丁寧に解説している。
「ありのままの自己」のそのままの肯定や、
ありのままを超える自己の肯定や、
ありのままの否定を経てから一周回っての肯定、
といった禅のさまざまなロジックの概要、
夢窓国師が公案を「鉄饅頭」に喩えたことの意味、
「看話」というシステムが完成したことの功罪、
不断の修行の世界を指導した道元のねらい、
暴走する文明に「無」としての禅をつきつけ世界の苦しみと交感した大拙の思想など、
論じ、
指摘される内容はいずれもとても含蓄深い。
巻末も読書案内により、
本書から先の専門的な議論への道が示されており、
初学者にとってはうってつけだろう。