深い孤独や絶望の中にいる人のところへ、真っ先に駆けつける弁護士でありたい

入学して半年ほど経ったある哲学の授業は、
一生忘れられない思い出になったという。


始業のチャイムが鳴り、
担当の教授が教室に入ってきて最前列の中ほどに座っている僕を見つけると、
「荷物を持って教壇のところまで来るように」と言った。


「ある学生から、
君が点字でノートをとる際の音がうるさくて迷惑していると苦情が出ている。
だからそこではなくて、
他の学生がいない隅の方に座りなさい」授業中に100人近くの学生の前に立たされて、
面と向かってそう言われたことに僕は言葉を失った。


点字を打つ時にはどうしてもコツコツと音がする。
それほど大きな音ではないのだが、
聞き慣れない人にとっては、
イライラする響きなのかもしれない。
僕もそのことは自覚していたので、
なるべく音を立てないように注意していたつもりだった。


それまでざわついていた教室が静まり返り、
皆の視線が紅潮した僕の顔に降り注ぐのがわかった。
不覚にも涙がこぼれ落ちた。


苦労して同い年の一般の学生と同じスタートラインに立つことができ、
「障害を負い目に感じる必要はないんだ」と思えるようになったところだった。
それだけにこの一撃はきつかった。


ところが次の瞬間、
もっと驚くようなことが起きた。
教室のあちこちから「席を移る必要はない」という声が上がったのだ。


僕は様子を見るために一度席に戻った。
その後、
教室全体が講義をそっちのけで、
僕の処遇を巡る討論会になった。
当事者である僕は静観している他はなかったが、
皆が個人と集団の便益についてのそれぞれの考えをぶつけ合い、
授業よりも白熱した生きた「哲学」の時間になった。
思わぬ展開だったが、
教授もそれを制止しようとはしなかった。


結局、
多くの仲間のおかげでそれまで通り自由な席で授業を受けられることになった。
あのときに僕を擁護してくれた仲間の声は、
今でも耳に残っている。


授業の座席１つでずいぶんと大げさなことになったものだが、
今思えば、
こんな身近な事件にも、
立場の弱い少数派の権利を社会全体でどうやって守るべきか、
という本質的なテーマが凝縮されていた。