生物有機化学に独自性を出す学部学生向け教科書

大学で有機化学を本格的学ぼうとする人たちを対象にこのレビューを書く．選択すべき有機化学の学部学生向け教科書は３種類しかないといっても過言ではない．「ジョーンズ有機化学」，「ブルース有機化学」と「マクマリー有機化学」である．どれを選んでも後悔しないが，大書であり，１書に限定して学習したほうがよい．本書は生物有機化学の内容を充実させることによって他の２書との独自性を出している．
第５版と第４版の違いを，これから有機化学を学ぼうとする人に説明してもあまり意味がない．コンピュータの初心者にWindows VistaとXPの違いを解説されても面食らうのと同じである．Appleコンピュータについてある程度の知識のある人なら，（第４版と第５版の）違いをこう説明できる．Mac OS 9からMac OS Xのような画期的なヴァージョンアップでなく，Mac OS.X.4からMac OS.X.5ほどの変化もない．
ブルースが得意とする生物有機化学の分野に「代謝」などの項目を下巻に取り入れられて充実したことである．もう一つは，「基礎固め」の項目が付け加えられたことであるが，後者は，さほど特筆すべきものではない．第５版でも立体化学のいくつかの説明で，初学者に誤解をまねくFischer投影図が用いられているのは残念であるが，このことが本書の評価を左右することはない．
化学は他の学問に比べて覚えておかなければならないことが比較的多い分野である．ここをクリヤーしないと有機化学は理解できない．基本事項を忘れないようにする唯一の道は練習問題を解くこと以外にない．基本事項を習得できれば有機化学は必ず面白くなる．この意味で基礎固めとして「練習問題」と「章末問題」が充実した．「問題を解くこと．近道はない．問題を解くことが有機化学を学ぶ唯一の方法である」（「マクマリー有機化学概説第５版」まえがきから引用）からだ．