今年一番のマンガ

この人の処女作竜の学校は山の上 九井諒子作品集は非常に素晴らしかった。

ファンタジーとリアリティーの絶妙なバランスの取れたその作風に惚れこみ、
一気にファンになってしまった。

それからようやく出たこの二作目。
すごく期待していた分、
不安も大きかった。

もしかしたら一発屋なのでは・・・？

そんなくだらない不安は、
今作の最初の物語を読んだ瞬間に吹き飛んだ。

この才能は本物だと確信した。


『竜の小塔』は割と前作の雰囲気に近いテイストの作品。

何といっても設定が絶妙すぎる。
「竜」の扱いがこれまた面白い。

山と海で争っている国の間に竜が巣を作る
善でも悪でもなくただ一生懸命生きている竜の親子
彼らに心を動かされる人々。

そんな敵を見て、
同じ人間なんだと悟る人々
そして訪れる美しい結末
かなり好きな短編。


『狼は嘘をつかない』の疑似育児エッセイ漫画も斬新だったし、
『金なし白祿』の漫画の表現の限界に挑んだような力作も読みごたえがあった。
最後は主人公とともにホロリ（余談だがこの作品は「大神」というゲームとの共通点も感じた。
日本画の中にいるような世界観。
そして主人公は筆で絵を描くことで命を吹き込む！どっちも素晴らしい）
かと思えば『犬谷家の人々』は良い意味で馬鹿馬鹿しいコメディーに仕上がっており、
作者の幅の広さに脱帽。

超能力者一家ｖｓ天才探偵というこれまた絶妙な組み合わせ。
「着てる服をパジャマに変える」という誰得な能力に笑った。
個人的にはこの話が一番好きかも

竜や人魚や神さまなど色々摩訶不思議な存在が現れる本作だが、
あくまでそこから生まれる人間ドラマをきちんと描いている所が素晴らしい。
単なる出オチではなく、
豊かな物語がちゃんとある。