未来を始めるための一助

　読みやすい、
分かりやすい、
値段も安い、
の三拍子が揃った良書。

　
　書名にある通り、
「やっかいな放射線と」「向き合って」「暮らして」いかなければならない、
福島県浜通り在住の者としては、
こんな基礎知識こそ欲しかった。


　物理法則と化学法則と生物法則をごっちゃにして、
イメージで語ってしまうことが多いけれど、
要は、
物質の持つ力を人為的に利用しようとして失敗してしまいました。
この溢れ出た力を押さえるには、
時間と空間の上手な管理方法が必要です。
この力は細胞も損傷するので、
健康管理も必要です。
「やっかいな放射線」とは、
そういうことなのだろう。


　本書は原子力政策についてや、
そもそも人類が原子力を開発利用することについての可否は問わない。

　ただ物質にはこういう力があり、
それを利用すればこんなことが出来る、
操作を間違えばこういうことになる、
ということを中学生にでも講義するように淡々と語る。

　
　原子力は、
発電でも兵器でも医療でも人類は手放すことは出来ないのだろう。

　この力と向き合って、
やっかいながらも暮らしてゆくしかないのだろう。

　本当はその恩恵も厄災も、
一世紀も前から覚悟しておかなければならないことだったのだ。

　
　ただ、
春の山菜、
秋のキノコ、
夏の渓流、
冬の猟、
そして海の幸、
これらの愉しみと労働を奪い、
人心を一気に荒廃させた、
この「やっかいな放射線」を、
どう暮らしの中に織り込んで行けばよいのか。

　
　私たちの物語は始まったばかりだ。
そしてその分、
私たちは少しだけ未来に来ているともいえる。

　
　本書はその物語を始めるための、
誠実な物理学者からの一助となっている。
0