恋愛とエクリチュール

　これはひたすら美しく、
断片的だがしかし思想にあふれた本だ。
もちろん、
「疲労」や「電話」など、
恋愛についてのささやかで細やかなことがらや思いのそれぞれを見事に分析してみせるバルトの文書だけでもため息ものなのだけど、
それに加えて、
ディスクールやエクリチュールについての新しい思考も述べられているようだ。

　特に刺激的なのは、
恋愛と死や喪、
死について書かれたところだろう。
恋愛における死を先延ばしにすること、
自分の死を知りつつそれを先延ばしにすること、
それが書くことであり、
「エクリチュール」なのだ。

　手に取ってみるだけではなく、
買って手元においておくことをお勧めしたい。
断章形式なので、
どこからでも読み始められるかわりに、
いつまでも読み終わることはない。
いつまでも読みっぱなしにしておくことが許されていて、
いつまでも読み続けたい本だからだ。