リンバロストの乙女 下 (河出文庫) の感想

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参照データ

タイトルリンバロストの乙女 下 (河出文庫)
発売日販売日未定
製作者ジーン ポーター
販売元河出書房新社
JANコード9784309464008
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学

購入者の感想

オチがハッピーエンド恋物語になる(姉妹作『そばかすの少年』もそうだが)点では、同時代の家庭小説と
同列に扱われそうだが、リンバロストの森を背景に、女性たちが独立した意志を持って人生を選び取っていく
姿は、一線を画して現代性がある。美しいと同時に畏怖を抱かせる自然描写もすばらしい。

蛇足ながら気になったのは、この新版の下巻にある梨木香歩の解説。蛾をメタファーだと言いながら、何の
メタファーなのかも解説されないまま、上巻のDV的描写(たんなるDVとは明らかに異なる愛情のねじれが
丹念に作品には書き込まれているのだが)にこだわったまま、ほとんどネタばらしの引用が延々と続いて、
「著者が生粋のナチュラリスト」だった・・・って、何だこりゃ。

蛾は女性たちのメタファーだ。ゆっくりと濡れた羽を乾かして広げ、はばたいてゆく・・・それぞれが紡いでいた
繭から出て。ヒロインのエルノラしかり、母キャサリン・コムストックしかり(だからたんなるDVではないのだ)。
エルノラの恋敵エディスがたんなるパターンにはまった造型でなく、一読では不思議なほど最後まできっちり
書き込まれているのも、エディスもまた蛾なのだ、と読むとすっと腑に落ちる。

こうした人間洞察が、ポーターがナチュラリストとして持っていた自然への深く広いまなざしに裏打ちされている
ことをを物語っている。

 下巻では、エルノラは大学へ行く学費を工面するために、小学校で博物学を教えることになります。毎週2時間、標本を生徒に示して教えるのです。これはエルノラのために設けられた新しいポストでした。
 そこで、娘と和解した母親と娘は話し合います。六月を他の月とちがった魅力的なものにしているのはなにか。ビロードのような翅を持った大きな夜蛾の誕生だ、と。いまやエルノラの第一の生徒となった母親はこんな言葉を言います。「小学校の最下級の子供でさえ、二、三匹の蛾が出てくるのを見たり、その身の上をならったりして、自分たちの目の前で蛾の生い立ちを見れば、蛾というものを理解できる。つがいの標本を見せ、それからその卵を見せ、成長していく毛虫を見せ、それから繭を見せるという順序にしなくてはいけない。一年の月一つ一つの赤い心臓を掘り出し、脈打っているところを子供たちの前にかかげるのよ」と。みごとな理科教育法といえましょう。そこでエルノラは子供たちに蛾の一生を見せることにします。蛾の一生は生命の息吹を生徒に実感させることになる、そんな風に、二人は信じています。エルノラはやがてひとりの青年と恋に落ちます。『リンバロストの乙女』は、USAではいまだに人気の高い小説ですし、沼地リンバロストも観光名所のひとつです。日本でもこの傑作の人気が再燃することを願っています。故・氷室冴子さんの名ブックガイド『マイ・ディア』(角川文庫)にも再び陽があたりますように。

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