地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書) の感想

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参照データ

タイトル地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか? (ちくま新書)
発売日販売日未定
製作者久繁 哲之介
販売元筑摩書房
JANコード9784480065629
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 政治 » 政治入門

購入者の感想

面白い本だと思います。
何が面白いかといえば、実名で実際に行った市町村の地域再生の試みを一刀両断に具体的に、ボロクソに批判しているという痛快さにあります。

金を掛けただけで血が通わないただの箱物は失敗しているし、
市民ニーズからスタートした市民交流に根ざした試みは活気が出ています。
「活気が出ている」と書いたのは、利益が出ていないということです。
この本での地域の活性化とは私益より公益を追求し、試み自体に利益は出ずとも街全体で利益を出すために、
公的支援は赤字でも仕方が無いというスタンスです。
このスタンスは、IBMでコンサル的な仕事をしてきた(私益中心だった)著者が、とある経験をきっかけに公益に目覚めたバックストーリーを絡めて展開されていきます。
この考えは、大きくは企業活動にも通じるし、個人の生き方にも通底する深さがあるとこの本では暗示しています。

深さという意味では、「人口減少の日本社会の中での地域再生とは何か」をさらに触れてあれば深みが出たと思います。
日本の地域はどうなるべきか、全ての地域を再生するべきなのか、一部に集約化すべきかという財政的な根本問題を知りたいという思いは残りました。

街づくりは多くの場合、公共事業の一環として土建行政に分類されてきた。
つまり、どこに道路を敷き・どのような建物をつくるかという視点で議論され、その道路やハコの出来具合がプロジェクトの成功であった。結果、最も市民と密接な街が、大規模予算を使ったハコモノ行政の被害者となり、被害者の声が届かないまま、「成功」事例を模倣したハコモノ中心の街づくりが全国で再生産される。
「いい街」とは何か。それは、市民が決めることだ。今いる市民だけではなく、未来の市民(それは子供たちでもあるし、今後移住して来る人たちでもある)も含めて、「いい街」のビジョンをつくらなければいけない。行政がビジョンを持っていない以上、行政が主導して街づくりはできない。
本書が指摘している土建工学者、地域再生関係者、自治体の誤謬は概ね正しいだろうし、事実視察が来るほどの「成功例」が、実は立派な建物を町の中心につくっただけで、最初の1年で賞味期限が切れ、後は高い家賃・固定費に耐えきれず店舗の撤退が相次ぐようなプロジェクトであることはしばしば目にした。そして、地域の若者たちが行政をあざ笑うかのように、その再開発地とは無縁のひなびた裏通りで魅力的なお店をどんどん作って新しいストリート発の文化をつくっている事例も目にした。

ただ、本書が指摘するように、人の意識を変えるのは簡単なことではない。「私益より公益」「経済より交流」も正論ではあるが、私益を求める人に公益を説くより、私益で構わないけれど「公益につながるような私益」を目指している若者を地域でいかに発掘し、どうやってチャンスを与えるのか。全国で問題は喫緊の課題である以上、意欲ある若手(もちろん若手でなくてもいい)がチャレンジする機会にこそ、金とエネルギーが投資されるべきなのだろう。

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