限界集落の真実―過疎の村は消えるか? (ちくま新書) の感想

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タイトル限界集落の真実―過疎の村は消えるか? (ちくま新書)
発売日販売日未定
製作者山下 祐介
販売元筑摩書房
JANコード9784480066480
カテゴリジャンル別 » 社会・政治 » 社会学 » 社会一般

購入者の感想

「集落の限界問題はこうして、世代間の地域住み分けがなされた上で、高齢による担い手の喪失が予想される地域の中で、2010年代以降、いかにして各世代への地域継承が実現されるのかという問題として設定される」。

限界集落問題について解説した本。著者は地域社会学、環境社会学の専門家。日本各地の集落を訪問したレポートも多く掲載されている。著者によると、ダム建設などの理由が伴っていないムラの消滅件数は実際はとても少ないのだそうだ。これは、限界集落という言葉の認知度が高まる一方で、集落側も自主的に適応してきた結果であり、ムラであろうという力もあるのだという。しかし、楽観はできない。著者はそれでも多くの集落は残ると考えてはいるようだが、特にコミュニティを何とか支えてきた昭和一桁世代が軒並み平均年齢を超える2010年代は注意が必要だという。

過疎地域を、村落型、開拓村型、伝統的町、近代初期産業都市、開発の早い郊外住宅地と5つのタイプに分けて特徴を説明している。また、地域によって抱えている事情は異なっており同じ限界集落はひとつとしてないのだが、共通する症状もあるとしている。また、フィールドワーク的な話だけでなく、日本の人口の変遷を示した各種データと限界集落の問題との関連性についてマクロ的な視点から解説している部分は秀逸である。

また、主観的な意見が混じり論理的に納得しがたいところもあるが、他の学者の説に異論を唱えたり、深刻さを増す日本の少子高齢化と人口減少に合わせた地域社会のあり方についての「効率性の悪い場所には消えてもらった方が良いではないか」という多少極端な意見に対して様々な比喩を動員して力をこめて反論している。

最近の新書では一番面白い1冊でした。

限界集落という概念が語られてから20年。
実は消滅した集落はほとんどない。
本書の前半部分で、
著者は具体的な取材から限界集落の実態を明らかにしています。

近隣に住む子どもが頻繁に訪問すること。
地域社会が残っており、生活は昔のままと捉える住人が多いこと。
消え去った集落の理由は、実は行政政策等によるものが多く、
セカンドハウス的な使われ方をする家屋も存在すること。
最大の悩みは少子化であること。

新しい知識を提示してくれる、この前半部分が特に面白く読めます。

過疎と高齢化に悩む集落の現状は、
従来報道されてきた限界集落のステレオタイプからは、
かなり異なります。
報道による限界集落論が表面的で誤解の多い、
問題のある一方的なものだということが分かります。

全国の限界集落のレポートが中盤にあります。
どれも興味深いですが、
特に高知県の事例は考えさせられます。
県庁からクルマで20分で到着する限界集落の存在は、
想像を超えていました。

高知市の地形からすれば、
市街地のすぐ隣から山深い地形がひろがっていますから、
納得感はありましたが、
自動車も入らないような集落に住む人たちの現状は、
それにしても衝撃的です。

著者はどんどん田舎に足を運んでいて、
ちょっと宮本常一的な世界を覗かせてくれます。
だから読み物として普通に面白いのです。

後半は限界集落再生の鍵を提示しています。
経済的な論点が中心ではありますが、
フィールドワークに基づく、
地域の視点が加わっての提言なので、
集落の「身の丈」をきちんと捉えている印象があります。

ちょっと難しい部分もありますが、
学者的な冷静さと、
ルポルタージュの好奇心が合わさったような、
読みやすい文章です。

鬼頭秀一の「社会的リンク論」(ちくま新書『自然保護を問いなおす』1996 などを参照)に触れて以来、現代日本社会の過剰な分業と、それによる社会的分断とに関心を抱き続けて来た私には、過疎問題の根底に世代間の住み分けを指摘し、「中央と地方、都市と村落、これらの間の誤解を解きつつ、関係を新しく作り直すこと」を、今後の日本社会全体の課題であるとする本書の主張(P283)は、極めて説得的だった。

つまり過疎問題/限界集落問題を一つの病気にたとえるならば、社会の持続性を失わせるほどに過剰となった現在の日本社会の分業/分断の状況こそが真の“病因”なのであって、過疎の進行や限界集落の増加は、結果的に現れた“症状”の一つに過ぎないのである。あるいはこれを家族の問題にたとえても良い。登校拒否やDVなど、様々な社会的不適合の“症状”は各個人に現れるとしても、その真の原因は症状が現れた個人のみに帰するべきではないだろう。家族全体のあり方から考え直していかなければならないことも多いと聞く。

であれば過疎問題や限界集落問題への対応もまた、過疎の村や限界集落への“対症療法”のみで十分な効果が期待できるとは考えられない。むしろそれらの地域に過疎や高齢化という“症状”を押し付けている中央や都市の側がまた、これらの症状を自らの問題として受け容れ、日本社会全体の構造の中で解決を模索することが必要になる。著者が「過疎地に関わる人たちよりも、これまで関わりがないと思っていた人たちに読んでもらいたい」と書く意味は、そのように理解すべきなのではないか。

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