キャリア教育のウソ (ちくまプリマー新書) の感想

1999年頃から国の教育政策として、小学校、中学校、高校をはじめ、
大学でも急速に広がってきた感のあるキャリア教育。しかし、この
広がりの反面、現場でキャリア教育を担当する先生方や、学生時代
にキャリア教育を受けてきた方たちの中には、何らかの「違和感」
を感じている方も多いのではないだろうか。

自己理解をして、職業理解をして、キャリアプランを立てるという、
学校現場で一般に行われているキャリア教育を、本書では「俗流キ
ャリア教育」という呼び名で表現し、俗流キャリア教育の問題点を
実に鋭く指摘している。

具体的には、一般に今行われているキャリア教育は、「キャリア」
という概念を狭く捉えすぎていること、自分のやりたいことを探さ
せてばかりいる教育の持つ盲点、現在のほとんどの中学校で行われ
ている職場体験の教育効果を高めるために必要な視点、キャリアプ
ランを立てさせることの不自然さ、現実に全員が正社員になれない
社会構造があるのにもかかわらず、正規雇用になることを求め、非
正規雇用になった場合の対応への視点がないこと等々に対して考察
を加えながら、これまで持っていたキャリア教育への固定観念に揺
さぶりをかけてくれる。

著者の捉えるキャリア教育は、現実的で時に泥臭い。早期からやり
たいことを追い求めさせ、経験も視点も十分でないのに企業と適応
の関係で結びつけるという、多くの学校で行われているキャリア教
育に対するアンチテーゼとして、非常に意義のある主張が次々に展
開されている。これまで感じていた「キャリア教育に対する違和感」
をスッキリと言葉で表現した、今後のキャリア教育を考えるために
も非常に意義のある本である。