夏の終り (新潮文庫) の感想
参照データ
タイトル | 夏の終り (新潮文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 瀬戸内 寂聴 |
販売元 | 新潮社 |
JANコード | 9784101144016 |
カテゴリ | 文学・評論 » 文芸作品 » 日本文学 » さ行の著者 |
購入者の感想
瀬戸内寂聴が出家する前の瀬戸内晴美の時代に書いた作品。女流文学賞を受賞し、彼女の出発点となった作品といえる。この作品は知子が年上の男と8年生活してきたが、妻への罪意識などで疲れ果て、年下の男とともに生活しても愛をみたすことができない苦悩を描いた作品である。年上の男とは小説家であり、妻がいるにもかかわらず、知子の家に週2,3日は宿泊している。俗語で言えば、浮気と表現できるのかもしれない。ただ、この男は妻に、このことを伝えているのである。もう8年にもなる。理解しあっていれば、このような関係が認められるのだろうか。少し考えさせられる。また、年下の元恋人涼太が関係してきて、4人の登場人物の複雑な感情や表現で作品が構成されている。知子にとって夏は長かったという文が存在する。楽しければ時がすぎるのは早いはずだが、長いということはいかに苦悩の生活をすごしてきたかを示している。言い換えると、どろどろした関係と表現されてもよいように思う。しかし、この作品の結末は実にすっきりしている。どろどろさを感じさせない。これは何であろうか。私にはよく理解できないが、おそらく登場人物の間で苦悩を理解しあう描写が読者によく伝わってくるからではないだろうか。現実、この関係が道徳的には許されない状況という考え方もあると思うが、作品として美しく伝わってくるのは作者の巧みな叙述によるのだろう。