原発危機 官邸からの証言 (ちくま新書) の感想

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タイトル原発危機 官邸からの証言 (ちくま新書)
発売日販売日未定
製作者福山 哲郎
販売元筑摩書房
JANコード9784480066800
カテゴリ » ジャンル別 » 社会・政治 » マスメディア

購入者の感想

 もし東電の言うように全面撤退ではなく部分撤退となっても、ハッと気付いた時には、我も我もと撤退して「そして誰もいなくなった」状態になって、全機アウトの状態になっていた可能性が高いと思います。この本は事故当時の官房副長官だった福山哲郎氏が「あまりにも事実と異なる批判が多く、震災直後の対応を記録として残したい」として4冊の福山ノートを元に書いたとしていますが、冒頭の清水元社長が菅総理に「結論から申し上げます。撤退などありませんから」と伝えると、「はい、わかりました」と頭を下げるシーンは他の官邸メンバーにも記憶されてるいるということで、薮の中の側面もあるでしょうが、こちらの蓋然性が高いと感じます。

 東電から派遣された武黒フェローもベントの遅れについて要領を得ないことばかり言って、直接、現地の吉田所長と話しをさせろと要求すると、実は衛星電話の番号も知らずに、東電本店との伝言ゲームになっていたことを知ったというのにも驚きました。菅総理のヘリコプターでの訪問も東電側から吉田所長は知らされていないなど、東電内での意思の疎通もおぼつかない状況だったといいますから(p.70)、ぼくが菅さんの立場だったとしても、一度は怒鳴り込んだと思います。しかも、東電から官邸に派遣された武黒フェローが3号機に海水使うのを躊躇している、というのを吉田所長が「官邸が躊躇している」と勘違いしたとか、いくら混乱状態にあるとはいえ、東電内の意思疎通のなさは唖然とさせられます(p.94)。

 こうした混乱した状況の中で撤退を匂わせてきた東電に対して「1号機から4号機まですべて放棄すれば、大量の放射性物質によって東日本全体がだめになる」「放っておけば外国が日本に来て原発を処理する。そうしたら日本は占領されるぞ。何としても撤退などあり得ない」と東電に乗り込んだ管首相の言葉は、この本の白眉だと思います(p.108)。

 震災原発事故に対する官邸の、もっと言えば菅直人首相(当時)の対応が適切だったかどうか、問われているところだ。
 例えば、ヘリで現地を視察したこと。あるいは東電本店に乗り込んで激をとばしたことなど。
 こうした批判にさらされている当時の官邸の対応に対し、官邸内部にいた福山官房副長官の証言というのが、本書の核だ。
 もちろん、当事者の発言なので、100%信頼するということはできない。とはいえ、原発事故という圧倒的な危機的状況の中で、これだけの対応ができたということは、やはり客観的に見ても評価すべきところはあるだろう。何が起きているかわからず、専門家が役に立たず、事故を起こした主体が弱腰というなかで、官邸はよくリードしたと思う。アグレッシブに対応してきた菅首相は、確かにそのことだけで評価されると思う。(後の消費税増税のきっかけをつくったことは評価できないが)
 そうした困難さが、第1章で語られており、ここは必読だとも思う。
 東電には東電の見方があるのだろうが、事故後、現在までの東電の対応を見ていると、当時の東電の主体性のなさというのは、やはり事実なのではないかと思ってしまう。また全面撤退問題というのも、官邸から見たらそうなのだろうということだ。
 第2章は、中期的な対応だが、ここでは少し言い訳が多い気がする。また、その点を福山自身も認めている。例えばSPEEDIのデータが公開されなかった点だが、官邸はSPEEDIそのものを知らなかったという。本当だろうか。そうだとしたらそれはそれで問題だ。また、福島県内の校庭の年間20シーベルト以下という点についても、著者はリスクコミュニケーション、放射線の影響をうまく説明できなかった問題だとしているが、本当にそうなのか。ここはもっと別の対応があったと思う。中期的な対応は、時間があっただけに、やはり読者としては批判的に読んでしまう。
 第3章は今後のエネルギー政策だ。これだけ深刻な事故を起こした原発を、でたらめな対応しかできない原子力ムラの人たちの手で、今後も運転しつづけるのかといえば、対応にあたった当事者としては受け入れられないことだろう。ぼくもそう思う。ここは目新しい記述は少ないが、福山という政治家がどういった考えかということがわかればいいだろう。

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