恋愛論 (ちくま学芸文庫) の感想
参照データ
タイトル | 恋愛論 (ちくま学芸文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | 竹田 青嗣 |
販売元 | 筑摩書房 |
JANコード | 9784480092922 |
カテゴリ | ジャンル別 » 人文・思想 » 哲学・思想 » 哲学 |
購入者の感想
文芸批評から出発した哲学者である著者の本領がよく発揮された論考だと思う。
恋愛や小説といった事柄をきっかけとしながら、個別的な実存の社会的な承認への
闘争といった考察が深く原理的に探究されていて、生への認識を明晰にしてくれる。
「ロマン的世界の中では、人は自分が思い描く理想の姿をしている。しかし現実においては、自分
の存在は他人の中で自分がもっている立場と役割に一致する。現実の中で人間は、自分が何である
かを他人の視線の中で知るのだ。…現実は…幻想に対して無数の”否”で報いる。…成功はいつも
はるかにつつましいかたちでしかやってこない。…現実とはだから、この世のあるがままということ
ではない。…現実とはむしろ…可能でないことの動かしがたい秩序のことなのだ。」(21〜2頁)
「人々はふつう、この世界のさまざまな事物に価値があり、この価値がわたしたちの欲望を
かき立てるのだと考える。しかし事実は逆なのだ。人間の欲望が事物に意味と価値を与え、この
意味と価値を目標として『私』は自分を生きる。言い換えれば、『私』の欲望をかき立てない
事物は『私』にとって一般的な世界にすぎない。『私』の欲望をかき立てる対象が現われたとき、
世界はある固有の世界になり、そのとき『私』は自分固有の世界を生きることになる。」(54頁)
「『理想』は、空想的な『世界』を養分とはせず、現実世界で認められた”立派”で”偉大”な人物や
理念をモデルとする。そしてこのモデルは、彼自身が優れたものと認めたものであり、そのことで
彼自身の規範となりうるのだ。…人はこの理想像に向かって『精進』し、その目標のために他の欲望を
『禁欲』する。…”憧れつつ生きること”は人間が生を味わう力の根源にほかならない。人間がまったく
何ものにも憧れないなら、生はただ、生存を維持するための必要に還元されるだろう。」(101頁)
恋愛や小説といった事柄をきっかけとしながら、個別的な実存の社会的な承認への
闘争といった考察が深く原理的に探究されていて、生への認識を明晰にしてくれる。
「ロマン的世界の中では、人は自分が思い描く理想の姿をしている。しかし現実においては、自分
の存在は他人の中で自分がもっている立場と役割に一致する。現実の中で人間は、自分が何である
かを他人の視線の中で知るのだ。…現実は…幻想に対して無数の”否”で報いる。…成功はいつも
はるかにつつましいかたちでしかやってこない。…現実とはだから、この世のあるがままということ
ではない。…現実とはむしろ…可能でないことの動かしがたい秩序のことなのだ。」(21〜2頁)
「人々はふつう、この世界のさまざまな事物に価値があり、この価値がわたしたちの欲望を
かき立てるのだと考える。しかし事実は逆なのだ。人間の欲望が事物に意味と価値を与え、この
意味と価値を目標として『私』は自分を生きる。言い換えれば、『私』の欲望をかき立てない
事物は『私』にとって一般的な世界にすぎない。『私』の欲望をかき立てる対象が現われたとき、
世界はある固有の世界になり、そのとき『私』は自分固有の世界を生きることになる。」(54頁)
「『理想』は、空想的な『世界』を養分とはせず、現実世界で認められた”立派”で”偉大”な人物や
理念をモデルとする。そしてこのモデルは、彼自身が優れたものと認めたものであり、そのことで
彼自身の規範となりうるのだ。…人はこの理想像に向かって『精進』し、その目標のために他の欲望を
『禁欲』する。…”憧れつつ生きること”は人間が生を味わう力の根源にほかならない。人間がまったく
何ものにも憧れないなら、生はただ、生存を維持するための必要に還元されるだろう。」(101頁)