動的平衡2 生命は自由になれるのか の感想

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参照データ

タイトル動的平衡2 生命は自由になれるのか
発売日販売日未定
製作者福岡伸一
販売元木楽舎
JANコード9784863240445
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

購入者の感想

これまで、サイエンスに関する著書をかなり読んできたが、テーマの取り上げ方や解説の切れ味は、その著者の力量によって、大きく異なると感じている。
そういう意味では、分子生物学を専攻する教授として、また文章力にも優れた福岡伸一氏の著書は秀逸といってよい。

本書は、連載されたエッセイを一冊の本にまとめたものなので、いくつかのテーマが載せられているが、なかでも著者が深い関心を示し、かつ、我々にとっても興味深く解説されているのがエピジェネティクスだろう。

ダーウィンの進化論は、周知のとおり、遺伝子における突然変異と自然選択によるものとされているが、本当にそれだけで、環境に適した進化がこれだけの時間軸で都合よく実現できるのか、疑問を感じたのは私だけではないだろう。

例えば、複数のサブシステムから構成されている機能において、仮にそのうちのひとつのサブシステムに突然変異が起こっても、それだけではシステム全体の進化として機能しない場合は、自然選択の対象にはならない。
また、ほとんどの突然変異は、ごく稀な事象である上に、その影響は良い方向よりはむしろ破壊的方向に起こる。

エピジェネティクスは、個々の遺伝子の突然変異だけでなく、それらの遺伝子がいつどの程度機能する(その遺伝子にもとづいて、タンパク質が製造され、細胞の内外で作用する)かを決定する情報(マターナルRNA)が卵細胞を通じて次の世代に受け継がれることにより、進化が実現するという考えにもとづいている。

たとえば、ヒトの遺伝子は、チンパンジーのものに比べて、2%の違いしかなく、仮に遺伝子操作でその異なる遺伝子を書き換えても、チンパンジーはヒトにならない。しかし、ヒトの遺伝子はチンパンジーのそれに比べて遅く機能することが知られており、そのことにより、ヒトの子どもの期間はチンパンジーよりも長く、従って、ヒトは、怖れを知らず、好奇心をもち、多くの試行錯誤によりスキルを向上させたと、エピジェネティクスを主張する学者たちは考えている。

次は、福岡氏のどの著書を読もうかと迷うのも、それはそれで楽しい。

著者の本を読むのはこれが3冊めだ。これまでに読んだのは「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」 
著者のメッセージに従って読む限り、著者が追究しているテーマで一番挑戦的な部分は、遺伝子の突然変異と自然淘汰による適応的な変異の蓄積として進化を説明するダーウイン以来の進化論に関して、それを肯定しながらも、それでは足りない部分を感じ、生命を生命たらしめている第3の仕組みを解明しようとしていることだろう。

遺伝子の突然変異と自然淘汰は、ゆっくりと漸進的に蓄積される変化をもたらすが、それでは例えば「カンブリア爆発」のような急速かつ爆発的な多様な種の進化を説明できないと言う(p52)。またチンパンジーと人間の遺伝子の差異は2%だが、この2%の違いでは人とチンパンジーの相違を説明できないと筆者は言う(p207)。

その視点から本書では「エピジェネティックス」というフロンティア的な研究分野を紹介している。「遺伝子の外側で起きている」ことが実は個体発生上、種の重要な相違を生み出しているという学説だ。遺伝子の構造と当時に、遺伝子のスイッチがオン・オフされるタイミングの相違で実際に形成される形態の大きな違いが生まれる。そして遺伝子活性化のタイミングを制御する仕組みが、親から子に受け継がれる点に注目するのがエピジェネティックスの視点だと言う。

その仕組みはまだ解明の糸口段階にあるようだが、卵細胞に含まれている遺伝子以外の物質(マターナルRNA)やDNAの糸を規則正しく巻き上げるタンパク質などが係っていることがわかってきていると言う(p214)。
また大腸菌がプラスミッドというDNAの小片を他の大腸菌に渡すことで、環境適応的な変異を急速に遂げることなども、実に興味深い(p146)。

私は生物学も進化論も専門ではないが、リチャード・ドーキンスの著作やSJグールドの著作などを楽しんできた。福岡伸一氏も、語りの巧みさと、話題の豊富さ、発想力の奔放さで、彼らに並ぶ書き手だと思う。

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