解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫) の感想

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参照データ

タイトル解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯 (河出文庫)
発売日販売日未定
製作者ウェンディ・ムーア
販売元河出書房新社
JANコード9784309463896
カテゴリ文学・評論 » 評論・文学研究 » 外国文学研究 » 英米文学

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 本書は、18世紀後半に活躍したイギリスの解剖学者・外科医である、ジョン・ハンターの生涯を描いたものだ。ハンターは、現代外科医学の発展の礎を築いた人物で、本書では、ハンターにより実施された数々の手術や人体解剖、死体を使った人体構造の研究、また生物の性質や進化に対するさまざまな実験や研究が描かれている。
 内容は興味深いエピソードが満載だ。ハンターは解剖実験用の死体を調達するため、墓地から死体を掘り起こすという違法行為を行っていたというのだから驚きだ。虫歯治療では、この時代の治療手段として死体から引き抜いた本物の人間の歯を使うことが多かった。貧しい子どもたちがわずかな金と引き換えに、自らの歯を差し出すこともあったという。またハンターは、当時流行っていた性病を調べるため、患者から採取した膿を自らの性器に付着させ、その経過を観察するということまでやってのけるのだ。第12章では、後の時代の救急医療、救急蘇生法の元となるハンターの試みが描かれる。当時のハンターの見識に驚くばかりだ。
 この時代ならではの医療事情も興味深い。手術の成功率は、今とは比べ物にならないくらい低かった。麻酔や消毒薬などを使うことはほぼなかった。故に、本書で描かれる手術が、どれもとても痛々しく伝わってくるのだ。第4章の膀胱結石を取り出すシーンなどが特徴的だ。(読んでいて本当に「痛い」)夏の戦場での不衛生な状態での治療行為、妊婦の死体を解剖したあとの胎児の生々しい描写など、ややグロテスクな内容も本書のよみどころだ。
 ハンターは、生物に関する考察では、「確立された教義に疑問を持ち、自分の頭で考える」というスタンスを崩さなかった。当時ではキリスト教の教義に反する異教思想であり、ハンターのこのような姿勢は周囲との間にさまざまな軋轢を生んでいく。そして最後は壮絶だ。病院での会議で対立する関係者を説得しようと奮闘中に突如倒れ、そのまま帰らぬ人となる。ハンターは生きている間ずっとそうだったように、反逆の精神のままにこの世を去る。
 フィクションさながらの内容の本である。天才外科医ハンターの奇想天外な行動に、とにかく飽きることなく読み進めることができた。医学系分野の書籍で実績の多い矢野真千子氏による翻訳が、本書をより一層読みやすくしている。とにかく面白い、お勧めの1冊だ。

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