夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫) の感想

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参照データ

タイトル夜想曲集: 音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (ハヤカワepi文庫)
発売日販売日未定
製作者カズオ イシグロ
販売元早川書房
JANコード9784151200632
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学

購入者の感想

最初の1行から
一気に物語の中にひきこまれ、

静寂、光と闇、音、湿度や風、石壁の質感、
バンドの演奏、テントのはためき、ウエイターのしぐさ、
老夫婦のヒストリー、重ねる手と手…描かれている世界を
体感し、堪能した。

たとえば『老歌手』の、ゴンドラのシーン。

ガードナーがいきなり歌いはじめた。
ゴンドラの中に棒立ちになり、いまにもバランスを崩しそうな
不安定な姿勢ながら、その声は私が覚えている昔のままだった。
穏やかで、ささやくほどにハスキー。だが、
びっしり中身が詰まっている。
目にみえないマイクがあって、そこから流れ出してくるようだ。
歌声にはじれったさが籠もり……偉大な歌手はみなそうやって歌う。

いつか再びベネチアを訪れたとき、
実体験のようにこの場面がよみがえるだろう。
ガードナーの、ささやくほどにハスキーで
じれったさの籠もった歌声が聴こえるだろう。

小説の醍醐味を、初めて知った気がする。
ゆっくり、くりかえし、味わいたい。

カズオ・イシグロの作品は、長編もいいが、短編も味わい深い。
『夜想曲』というタイトルにくわえ、「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という、ちょっとメロウなサブタイトルも魅力的。
私は旅行に出かけるとき、この本を持っていくことが多い。非日常の空間で、眠る前の一時に、ベッドの中で読むのにうってつけだからだ。
一つ一つの作品の舞台が、ベネチア、ロンドン、モールバン、ハリウッド、アドリア海岸等で、勿論、音楽をテーマにしている。カズオ・イシグロ自身、ミュージシャンを目指していた時期があると公言しているだけに、音楽への造詣は深く、好みのジャンルも幅広く、その嗜好が作品を鮮やかに、艶やかに彩っている。長編小説においてはあまり表されることのない彼特有のユーモアのセンスが、この短編集においては遺憾なく発揮されているのも愉しい。
カズオ・イシグロの軽やかな筆致は、おそらく、この短編集ならではのもの。力量のある小説家の、やや肩の力を抜いたような短編というのは、読者にとっては、コース料理の間に供される口直しの氷菓のように贅沢で有り難い。イシグロの短編集って、これだけですよね?新たな短編集が待たれる。

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