リーダーのための歴史に学ぶ決断の技術 (朝日新書) の感想

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タイトルリーダーのための歴史に学ぶ決断の技術 (朝日新書)
発売日2014-02-13
製作者松崎哲久
販売元朝日新聞出版
JANコード9784022735508
カテゴリ »  » ジャンル別 » ノンフィクション

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著者は、元衆議院議員で歴史小説家でもある松崎哲久さん。

第1章は「負け戦に臨む」として、終戦処理を託された鈴木貫太郎内閣、幕府の軍艦奉行であり明治維新後も徳川家の復権に尽力した勝海舟を取り上げる。海軍大将だった鈴木貫太郎内閣が成立した丁度そのとき、戦艦大和は米軍機の攻撃を受けて轟沈する。これは偶然か、それとも政府のシナリオなのか。

松崎さんは、「時代を読む。それがリーダーの資質である」としながらも、「時代が読めても、世間が追いつかないこともある」(44ページ)と述べる。第2章では、時代に早すぎた改革を推し進めた田沼意次、阿部正弘といった老中を取り上げ、改革は失敗しても、次代の人材育成に成功している点に注目する。
さらに、平民宰相・田中角栄を取り上げ、「戦後デモクラシーの申し子」(65ページ)と評する。田中内閣は短命に終わるが、その政治スタイルはシステムとなり、自民党の長期政権を支えてゆく。
張作霖爆殺事件の真相を知った田中義一内閣や、満州事件の陰謀を知った若槻礼次郎内閣は、いずれも決断を下さず総辞職。わが国は、泥沼から抜け出せない状況へと突き進んでゆく。

第6章では、捨てる勇気がリーダーの条件として、大政奉還を実行し無位無冠となった徳川慶喜を取り上げる。明治政府に何もしなかった慶喜は、生前に公爵となり、徳川第16代家達は貴族院議長を30年にわたって務めた。
一方、三度の内閣で三度とも失敗した近衛文麿は、名門に生まれたプライドを捨てられなかった。

第7章では「引き際と責任」と題し、まず、ポツダム宣言受諾の御前会議を経て、軍部がクーデターを起こさぬよう周到な手続きを行った上で自決した阿南惟幾大将を取り上げる。戦時中は失敗を繰り返した大本営と内閣ではあるが、終戦時に粛々と撤退した姿は見事なものである。
石橋湛山首相は、風邪をこじらせて軽い脳梗塞を起こした。「私の政治的良心に従います」の名句を残し、わずか65日で退陣してしまう。潔い引き際であったが、後任の岸信介首相の時代から官僚支配が始まる。

 本書は、織田信長から小泉さんに到るまでの日本史上の30名の政治的指導者の人物評である。主眼はやはり先の大戦に関連する人物達である。特に関東軍の独断専行の軍事的謀略を容認してしまい、日中事変を防止できず、国際連盟からも連盟から除外されるから閣議決定で脱退するという破綻した論理で脱退してしまい、先の大戦(元凶は日中戦争を防止できなかったこと。また実は和平交渉に応じた蒋政権との早期交渉に依る撤退で国際的孤立を打破していれば、失うものは少なかったのは明白)へ日本をミスリードすることになった四人(張作霖爆殺から柳条湖事件から上海事変までの関東軍自作自演の軍部謀略に際して、事なかれ、先送りの頓珍漢な致命的判断を繰り返した田中義一、若槻礼次郎、斉藤実、近衛文磨)の不決断が主軸であり、それとは対照的に感動的な決断を下したのは我々に負け戦にどう対応すべきかを示した鈴木貫太郎、阿南惟幾、GHQの指令で吉田内閣が追放した石橋湛山達だった。

 日本の戦争史に新しい光が当てられている点は強調されねばならない。また人物評に関連して、新たに発見された史実も紹介されていて日本史の再学習にもなる。著者は、古語を多用していることが現代の読者には難点があるとしても、本書の史観は歴史修正主義でも軍国主義史観でも東京裁判史観でもないので、読者は本書を、今日の民主主義の観点からイデオロギー的に安心して読破できる。ただし、明治政府が徳川慶喜、勝海舟のようなかつての政敵、支配勢力を含めて彼らを温存したのは、現在の人物破壊の傾向とは対照的に当時は人材総動員体制だったからとするが、あくまでそれは特権階級の一部に過ぎないことも留意がいる点である。

 著者は、歴史観が人や現実を動かす思想的な力となり得るし、思想とはまず歴史観である点を分析している。以下は著者の言葉である。
「…歴史は真実であろうとなかろうと、国民の中に醸成された『歴史観』によって現実を動かしていく。従って、誰がどのような歴史観を持つかは、極めて重要なのである。歴史は、それを読む人の歴史観を育み、その人を通じて世に広まっていく。」(P.245)

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