安吾のいる風景 敗荷落日 現代日本のエッセイ (講談社文芸文庫) の感想

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タイトル安吾のいる風景 敗荷落日 現代日本のエッセイ (講談社文芸文庫)
発売日2013-12-06
製作者石川淳
販売元講談社
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カテゴリ文学・評論 » エッセー・随筆 » 日本のエッセー・随筆 » 近現代の作品

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本書は石川淳のエッセイ24編を収録します.書名はそのうちの2編,「安吾のいる風景」と「敗荷落日」をそのまま流用しました.それ以外に,人と作品,年譜,著者目録があり,文庫本でありながら内容は充実し,石川淳を知りたい読者に格好の入り口です.エッセイそれぞれは石川淳独自の筆致で書かれています.これを知るとき,読者の多くは石川のファンになります.私は長年永井荷風を愛してきました.その荷風を,敗荷落日と一刀両断していて,その裁断の凄さに私は驚愕しました.茫然自失---.その出だしのところを引用します.

一個の老人が死んだ.通念上の詩人らしくもなく,小説家らしくもなく,一般に芸術的らしいと錯覚されるようなすべての雰囲気を断ちきったところに,老人はただひとり,身近に書きちらしの反故もとどめず,そういっても貯金通帳をこの世の一大事とにぎりしめて,深夜の古畳の上に血を吐いて死んでいたという.(中略)わたしは年少のむかし好んで荷風文学を読んだおぼえがあるので,その晩年の衰退をののしるにしのびない.(中略)それにも係わらず,私の口ぶりはおのずから苛烈のほうにかたむく.というのは晩年の荷風に於いて,わたしの目を打つものは,肉体の衰弱ではなくて,精神の脱落だからである.

永井荷風はあの戦争の後,落魄しました.石川はそれを精神の脱落だと言います.作家が精神をなくしたら蝉の脱け殻と同じです.敗荷落日---,敗荷とは荷風自身がつけた俳号です.自分の俳句を謙遜して敗荷と号したのでしょうが,謙遜は実のところ己自身の晩年を予知していたのでした.

本書は石川の交友記の感もあります.坂口安吾,太宰治.三好達治,彼らは石川の心を許す友です,戦後の昭和を代表する早逝の小説家であり,詩人でした.それを記すときの石川の筆遣いはあくまで優しく,穏やかで,荷風を叙するときのそれと鮮やかな対照をなします.荷風をふくめここに名を挙げた作家を知りたい人たちに本書を勧めます.

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