現代民話考〈2〉軍隊・徴兵検査・新兵のころ (ちくま文庫) の感想

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タイトル現代民話考〈2〉軍隊・徴兵検査・新兵のころ (ちくま文庫)
発売日販売日未定
製作者松谷 みよ子
販売元筑摩書房
JANコード9784480038128
カテゴリジャンル別 » 人文・思想 » 文化人類学・民俗学 » 昔話・伝承

購入者の感想

 2015年2月に死去した松谷みよ子の編による「現代民話考」の2巻。同時に読んだ3巻「偽汽車」とは異なり、怪談・奇談の類はあまりなく、軍隊・戦争についての普通の体験談が大部分を占めている。というより軍隊そして戦争の現実そのものが、どんな怪談・ホラーも及ばない恐怖と狂気と不条理に満ちたものなのである。
 徴兵で有無を言わさず連れてこられた新兵たちを外界から隔離された兵営での絶え間ない暴力とシゴキによって無表情な殺人機械に変えていくシステム。戦地で上官から「度胸だめし」と捕虜の殺害を命じられ、1人殺した瞬間に自分は別人になったと述懐する元兵士の証言(p.235)が重い。
 安易な楽観論から始められた出口が見えない戦争も、やがて日本の敗色が濃厚となっていく。連日の空襲。ジャングルの中の敗走。人肉食も頻繁に行われた飢餓。野ざらしのまま蛆に食われて白骨となる戦死者(戦死と言っても多くは餓死・戦病死)。その極限状態では捕虜や占領地の住民たち(時には在留邦人も)への残虐な行為も単なる気晴らしでしかない。やがて日本の降伏で軍隊の組織も崩壊する。戦犯として処刑される者。収容所に送られる者。いじめていた部下の手で復員船から海に投げ込まれた上官…。住民ばかりか味方からの報復も恐れて、降伏と同時に逆に山に逃げ込んだ者もいたという(p.273)。
 断っておくが当時の証言を少し当たってみれば似た話はいくらでも出てくる。それに目を向けないまま、タカ派の文化人たちが絶叫する「大東亜戦争は聖戦」「日本は負けてなどいなかった」「日本が戦争犯罪を行ったというのは捏造」といった妄想に脳天気に頷き続け、挙げ句に、身ぎれいでカッコいい兵士たち(や萌えキャラ)がカッコいい兵器でカッコ良く戦う漫画やゲームの「戦争」を現実の戦争と混同する「戦争も知らない大人たち」には、情けないを通り越して絶望感さえ抱いてしまう。
 その行き着く果てに、現在の若者たちも「自身の悲惨な戦争体験」を後の世代に語ることになるのだろうか。残念ながら私自身はそれが杞憂とは思えずにいる。

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