地図と領土 (ちくま文庫) の感想

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参照データ

タイトル地図と領土 (ちくま文庫)
発売日販売日未定
製作者ミシェル ウエルベック
販売元筑摩書房
JANコード9784480433084
カテゴリジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » フランス文学

購入者の感想

睡眠不足になりながら、興奮のうちに読み終えた。

ジェド・マルタンという芸術家の生涯を軸にした物語。ジェドは作品が話題になり、批評家や市場に高く評価されるたびに嫌気がさして閉じこもり、がらりと作風を変えた自作を発表するとそれがまた即座に評判を呼び、という過程を何度か経験する。

彼はどれほど成功を収めても孤独感と厭世観から逃れられず、生涯で心を許した相手は、恋人と老父を含めてほんの数人。その全員が、ジェドの望まないかたちで彼のもとから去っていく。ジェドはそのような生を静かに受け入れ、人知れず制作に打ち込む。

ミシェル・ウエルベック本人が登場し、作中で最大の事件に巻き込まれる箇所に読者は仰天させられるが、これは本作の主題とさほど関係があるとは思われない。全体の雰囲気はむしろ淡々としていて、物語の筋よりは細部の描写に魅力を感じる。

とくに興味が引かれたのは、以下の諸点。

・ジェドのさまざまな作品の描写。見事なエクフラシスである(修辞学で、芸術作品の細部を文章によって説明することをこう呼ぶ)。まるでそれらが実在するかのようにリアル。ジェドが虚構の人物であることを忘れて、作品の実物を見たいと思ってしまう。

・実在の有名人が多数登場。芸能人、作家、批評家、起業家、などなど。現存の作家が物語のある時点で死んでしまったりする。

・著者ウエルベックが偏愛している(と思われる)作家や芸術家の作品や思想が、登場人物によって手際よく整理され、称賛される。ウィリアム・モリス、トクヴィル、シャルル・フーリエ、ジョルジュ・ペレック、ジャクソン・ポロックなど。

・同じく、著者偏愛の実在の工業製品、食料品、酒やそのメーカーが魅力的に紹介される。ビデオカメラ、車、画材、ワイン、ブランデーなど。こうした記述からは、無名の職人や技術者に対するオマージュがうかがわれる。なお、ジェドの芸術は、機械製品やミシュランの地図などの職人芸の精華を題材としており、ここに芸術の職人芸に対する優位という近代の通念に対する批判を認めることも可能である(この点、芸術家を題材とした絵画が失敗し、ジェドがみずから破壊するのは示唆的である)。

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