ルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436) の感想

アマゾンで購入する

参照データ

タイトルルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436)
発売日販売日未定
製作者松本 博文
販売元NHK出版
JANコード9784140884362
カテゴリ » ジャンル別 » 趣味・実用 » 将棋

購入者の感想

表題通り、過去3回に渡る「電王戦」の模様を主に将棋ソフト開発者側の視点から描いたドキュメンタリーである。本来は将棋の知識に加え、人工知能・機械学習を含む計算機プログラミングの知識、ゲ-ム(木)理論に関する知識等が必要とされるのだが、将棋以外の専門知識を殆ど要さないように工夫されている。逆に言えば、ソフト開発者達の人間模様に的を絞った感があり、臨場感こそあるが、副題にある「人間vsコンピュータ」とは内容がやや乖離している様に映った。

「電王戦」に出場したプロ棋士に対して、直接インタビューして本音を聞き出すのは確かに難しいとは思うが、読者が期待しているのはまさにこの点であって、この意味で本書は読者の期待を裏切っているだろう。また、本書でも言及されているトップ棋士の3名のタイトル・ホルダー、羽生、森内、渡辺が「電王戦」あるいは将棋ソフトに関してどのような見解を持っているかという点も将棋ファンにとっては興味津々なのだが、この点に関しても本書は応えていない(渡辺が「電王戦」に参加する意志を持っている事は書かれているが)。全体的にプロ棋士に対する突っ込みが甘いと思う。

森内が「プロ棋士と将棋ソフトとは協力関係にあるのが望ましい」と語っているのを何かで読んだ記憶があるが、まさしくその通りであって、本書をキッカケに将棋自身、人間(プロ棋士)及び計算機各々の可能性について関心を持つ方が増えれば幸いだと思う。

私は以前から将棋ファンで、渡辺竜王VSボナンザ・清水女流VSあから2010・そして電王戦は全てネット中継で見たし、コンピュータ将棋選手権も現地に解説を聞きに行っていた。なのでコンピュータVSプロ棋士の戦いにはそれなりの予備知識があり、また、本書の著者が松本博文さんであることにも注目していた。松本さんは、将棋連盟とLPSAの対立に巻き込まれ、将棋連盟により対局中継の仕事を奪われたことで将棋界では有名な人だ。だから私の期待としては、松本さんが本書で将棋連盟に何らかの抗議をするのではないか、つまり将棋連盟の悪質さを表す事実を暴露するのではないか、ということがあった。しかし、その期待に叶うようなことは書かれていなかった。著者は将棋連盟に対して公平な視点で執筆したと言えるだろう。

そしてもう一つの私の期待は、第2回・第3回電王戦の、あの10局の熱戦の裏側にあった知られざるドラマを読むことだった。それは当然、『ルポ 電王戦』という題名の本の主要なテーマである。では、その期待は叶えられたのか――と問われれば、私は満足できるものではなかったと答えたい。まず、10局全てについて記述するにはページ数が少なすぎ、簡潔にまとめているため私のようにネット中継を見ていた者にとっては既に知っていることが多かった。そして、これが最大の疑問点なのだが、なぜ出場したプロ棋士にインタビューをしなかったのだろうか。第3回電王戦の後に橋本八段と渡辺二冠が語った話は載っているが、なぜこの棋戦で熱戦を繰り広げた5人の棋士の話が無いのか。しかも、本書にはポナンザの開発者である山本一成さんの私生活の情報はかなり詳しく書かれているが、それは本書の主題ではないので必要ではないばかりか、山本さんにとっても妻の藍さんにとっても読者にとっても不愉快なことだろう。なぜ山本さんの私生活に充てた多くの文章を、出場した棋士、または電王戦で将棋界に大きな波紋を呼んだ伊藤さん(ボンクラーズの開発者)や磯崎さん(やねうら王の開発者)の談話に充てなかったのか。この点で、私は著者の松本さんに対して強い不満がある。他人夫婦の出会いから結婚までの色恋話を出版物で晒し上げることに抵抗は無かったのだろうか。それよりも将棋連盟や将棋界の問題点について踏み込んだ記述をするのがジャーナリズムではないか。

あなたの感想と評価

コメント欄

関連商品の価格と中古

ルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436)

アマゾンで購入する
NHK出版から発売された松本 博文のルポ 電王戦―人間 vs. コンピュータの真実 (NHK出版新書 436)(JAN:9784140884362)の感想と評価
2017 - copyright© みんこみゅ - アマゾン商品の感想と評価 all rights reserved.