青白い炎 (岩波文庫) の感想
参照データ
タイトル | 青白い炎 (岩波文庫) |
発売日 | 販売日未定 |
製作者 | ナボコフ |
販売元 | 岩波書店 |
JANコード | 9784003234112 |
カテゴリ | ジャンル別 » 文学・評論 » 文芸作品 » 英米文学 |
購入者の感想
これまでナボコフの小説を色々と読んできたが、代表作を一つ挙げるとすれば、やはり『ロリータ』になるであろう。しかし、わたしにとって最も愛着の湧く作品となると、この『青白い炎』にとどめをさす。長編詩に対する註釈という形式での小説であり、ナボコフがいかに文学を愛でているかがこれだけで如実に分かろうというものだ。ゼンブラという国の最後の王と自認する語り手キンボートが紡ぎ出す物語は、シェイドの詩への註釈からは途方もなく逸脱し、ゼンブラでの若き日の回想や自分を暗殺しようとするテロリストの行動や詩人との最近の交流などが入り混じりながら進んでいく。どこまでが本当にあったことで、どこからが語り手の妄想なのか、読者にとって判然としないまま煙に巻かれてしまうといった塩梅だ。しかし、小説が本来作家のイマジネーションによって生み出された架空の世界だとするならば、この物語が現実か語り手の妄想かは何ら問題ではないということに気付かざるをえない。その虚構の物語に付き合って、読者が楽しめたかどうかこそがその小説の成否の分かれ目なのだ。そして、結論を言うならば、わたしはこの物語を大いに楽しむことができた。ナボコフが愛好するカフカの『城』と同じく、文体のそこかしこに人間に対する慈愛が浸透していることに感銘を受けたのである。ナボコフが単に文学的技巧に長けているだけでなく、人間の心と魂を描く作家であることを悟らされるのはまさにその時だ。