医療経済学講義 の感想

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参照データ

タイトル医療経済学講義
発売日販売日未定
販売元東京大学出版会
JANコード9784130421379
カテゴリジャンル別 » ノンフィクション » 科学 » 医学

購入者の感想

医療経済学のアプローチには、大別すると「医療」経済学と医療「経済学」がある。前者は主に医療の医学的側面や制度的側面に着目し、後者は主に医療の効率性の分析を行う。前者には医師など医療関係者が多く、後者には経済学者が多い。本書は明らかに後者の医療「経済学」のアプローチを取り、13人の執筆者のほとんどが経済学畑である。このことが本書を特徴づけ、同時に限界も示している。

取り上げているテーマは、ミクロ経済学の基本事項と医療サービスの分析アプローチ、各種のミクロ経済学的分析(需要、保険、生産、労働)、医療独自の問題の分析(医師誘発需要、価格、行動変容、技術伝播、格差問題、年齢とリスク)、医療制度の分析(医療費の定義、国際比較)と幅広い。従って各論考は、特定テーマを深掘りするというより、サーベイ的な内容が多い。多数の論文が引用されているので、最新の研究動向を知るには便利である。

本書のまえがきによれば、医療経済学の先進国はアメリカ(を含む欧米)であり、日本は後進国とのことである。医療経済学の「先進国」であるアメリカの医療の現状は、周知のように、医療技術の先進国ではあるが、国民一人当たり医療費が先進国中ダントツのトップであるのに、平均寿命が先進国としては短い。一方、医療経済学の「後進国」日本は、医療費が先進国中最下位であるのに、平均寿命はトップクラスである。アメリカはすさまじい医療格差の国(金持ちでなければ優れた医療サービスを受けられない)であり、約5000万人の国民が無保険者である。この実情に照らすと、アメリカの医療経済学者たちは自国の医療格差作りに加担してきたか、あるいは医療格差を傍観してきたとしか考えられない。この事実を本書の執筆者たちはどう考えるのだろうか?

本書を読んで感じたのは、保健医療に関する理念をもたずに、医療に市場原理を持ち込むことの弊害である。経済学者達は往々にして、ミクロ経済学の原理を医療や社会保障に適用して、「市場原理がナントカの効率を高める」として一本の論文をまとめる(結論はいつも同じである)。その結果が医療格差を正当化するのに用いられる可能性もある。医療経済学の「進歩」が、日本の保健医療のレベルを高める施策づくりに用いられて欲しいものである。

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