人体切断 (ノンフィクション・ミステリ・シリーズ) の感想

「虎の女」「トランク殺人者」または「同性愛殺人」などと形容されるウィニー・ルース・ジャド事件。
１９３１年１０月１６日金曜日アリゾナ州フェニックス、若く美しい女性が、同じ診療所に勤める親友二人（共に評判の美人だった）を殺し、
死体をトランクに詰め（うち一人はバラバラに切断して詰めた）
手荷物としてロサンジェルス行きの列車に載せたという事件である。
アメリカ史上初の女性猟奇殺人者！しかも非常に美しい――
マスコミは好餌にありつく猛禽類のように過剰に苛烈に報道する。
そして告訴。彼女は死刑判決をうけた。
残虐な女はどんな修羅場を演じて電気椅子の上で絶命したのか？
否、彼女は死なず生き延びたのだ。
刑執行の７２時間前に心神喪失を申し立て精神病院に送られる。
彼女が仮出獄したのは１９８３年になってのことだった。
それから数年後、この街に赴任した女性記者は、虎の女の奇妙な噂を耳にする。
「彼女は犠牲になったんだよ」「かばった末の出来事」
興味本位で調べた記者の前に広がる砂漠のような事実、
ある一人の街の有力者を守るために仕組まれた茶番――
冤罪であったことが発覚する。
この事件を利用し（必要とあらば偽告白記事などの捏造すら厭わず）自社の販売増を狙った新聞王ハースト、
スケープゴートを作ることにより大恐慌の痛みを忘れたマスコミ、
そしてなぜ街ぐるみの隠蔽が許されたのか。
世が世ならば、こんな茶番じみた冤罪、起きるはずがない。
そうであってほしい。